不思議な家(re-build)

 もしもそうならば、私は眼前の壁を突破して見せる必要があるかもしれない。本来あり得るはずのない空間が、壁の中に埋まっているとしたら探って見る価値は大いにある。
 私は物置小屋に移り(それは車庫の裏側にあった。存命中だった祖母ですらあまり立ち寄ることはなかった)、そこで一通りそれらしき道具をかき集めて玄関に戻る。
 手にしたのはノコギリと、ハンマーと、言って仕舞えばそのくらいだ。使用するかどうか定かでない、実に細々とした道具も抱えて持ってきていたが、要は何か思い至ってその度に玄関と車庫とを行きつ戻りつするのを防ごうというくらいのものだった。
 できることなら大きな音を立てる工具は使いたくなかった。壁に走っている線に合わせて、試しにノコギリをあてがってみる。
 線は始め、ただの線のように私の目には映っていたのだが間近で見てみれば溝と表現する方が実際に近かった。私は溝の縦のラインにノコギリを当てて、力を込めて上下に動かしてみた。
 あっけないくらいのものだった。溝の深い場所でノコギリの刃は何か柔らかいものにあたり、私の思い抱いていたような実にスムースな動きで全体の輪郭をなぞっていった。壁は瞬時に消失したのだ。信じられないほどの速度で。
 建築や家屋のあれこれに疎い私でも、これは不思議なことであると首を捻らずにいられなかった。壁の向こう側にあった何かが、糸を断ち切るかのようにして途切れていき、そうしてノコギリは木屑の一つも出さずに私の手元に帰ってきた。壁はそのままの姿を保っているが、裏では何かが寸断されている。これを押さずに踵を返してしまうのは、到底できそうにない。
 再度、私は右手を壁に当てて筋力を動員した。いくつもの筋繊維が滑走し、目の前の壁に向けてエネルギーを放出した。
 壁は、向こう側に倒れていった。
 刹那、私は声を上げた。短かい声だったが、驚嘆と、当惑と、興奮が混じり合ってよく訳のわからない声になっていた。
 壁は倒れていったのだが、次の瞬間にはぴたりと動きを止めてしまった。私の視界に入らないところで、壁を支えるものがあるらしい。
 私は倒れた壁の下の方を持ち、試しに後方へ引いてみた。重かったが、壁は素直に後退してくれるようだった。元々はまっていた箇所から真っ直ぐ引き抜いて、そうして私は菓子作りで型抜きするみたいに綺麗な長方形の穴を玄関に開けていた。
 型として抜いた壁は、反対側の壁に立てかけておくことにした。切り抜かれた壁の一部はいかにも不機嫌そうに見えた。役に徹していたところ申し訳ないね、と心の中で謝った。
 肩で息をし、今し方引っ張って立てかけた壁の重みを手のひらに感じながら私は振り返って見る。振り返ったところには、目指していた祖母の秘密とやらがあるはずだった。