不思議な家(re-build)

 母が不憫だ、などと思ったりしたこともあったが、それ以上に祖母が私を特別扱いしてくれているということの方が重要な意味を持っていた。母が怒られると、私は内心密かに破顔した。祖母の注意が終わると、私は何も知らない子供を装って母に甘えたりした。お腹が空いたからお菓子をくれ、外へ遊びに行きたいが構わないかという具合に。
 母は祖母のいる前だから必死の笑顔を取り繕って良き母を演じていた。演技は私の目には滑稽に映り、それが今になって、この好ましくない親子関係を構築していったのかもしれない。
 懐かしむように、後悔するように昔を思い出しているうち、あっという間に庭に出た。上から見たなら、この庭は長方形の形をとっているだろう。車庫とは隔絶され、一階の居間に入ることはできる。
 私は首を捻った。あのメモによれば、秘密とやらは家と車庫との間にあるはずだ。庭に出てきた時点でここはもう『間』ではない。
 いや、そうではないのかもしれない。付箋には『家と車庫の間』と明記されていたわけではない。『繋ぐ場所』と記されていた。車庫と家とを繋ぐ通路など、今のこの家には存在しない。そう、今は、存在しない。
 不意に訪れた、唐突な閃きが私の足を玄関に戻した。あそこかもしれないと、私には一箇所の心当たりがあるのだ。
 玄関で靴を脱ぎ、すぐ右手の壁を睨んだ。ここには前々から気になっている点がある。
 常々私は、家と車庫とを繋ぐ通路があれば良いのにと考えていた。ここに住むことになって、自分でリフォームして通路を増設しようかなどと思案してみた覚えもある。そういう時、必ず目につく箇所があるのだ。
 玄関のすぐ横の壁、車庫のある方角の壁にはうっすらとではあるものの線が走っている。線はちょうど大人の人間をすっぽり隠せるほどの大きさがあり、これもやはり庭の形とと同様長方形だ。ここに何かドアがあったなら、ちょうどこの大きさだろう。
 そっと右手を伸ばして壁に触れてみて、力を込めて押してみた。壁はわずかにでも動くことはない。この不可思議な線については、親戚の人間皆気づいていたに違いない。何か隠されているはずと、この壁に答えを求めたはずである。手付かずということは、諦めたということを意味しているのだろうか。
 もしこの壁を専用の工具など持ち寄り物理的に突破してみせたなら、そこには何があるのだろうか。
 考えてみても、あるのはあの車庫と家との間の道だけだろう。そんなこと、あるいは誰にだって少し考えてみればわかることだ。親戚の人間たちもやはり、そのように思ったのだろうか。壁の向こうはただ通路で、車庫を囲むコンクリートの塀があって、それだけであると見切りをつけたのか。