ゆるあまな先輩が俺にだけ本気なのは反則です

「今の、どういうことですか」
 思わず声を掛けた。俺の存在に気付いた橙士(とうじ)先輩は、呆気にとられた様子で固まっている。
(ああ先輩って、ちゃんとそんな顔もするんだ)
 いつもポーカーフェイスの先輩がそんな顔をするなんて、そこまでして俺に知られたくない秘密だったのか。
 確かに虚を突かれた。先輩がまさか、こんな秘密(・・・・・)を隠していたなんて──。
 
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 満開の桜が生徒たちの門出を祝うように学園内に咲き誇る三月下旬。
 一見すると無機質にもみえる白い外壁の学生寮は、一歩中に入れば開放感のあるエントランスが出迎えてくれた。
「ごめんねマジで。どうしても新入生の数が奇数になっちゃうから、小木曽(こぎそ)くんだけ二年寮なんて。先輩と一緒とか気ィつかうよね」
「大丈夫です。どうせ同級生の知り合いもいないので」
「あーそっか。地元遠いんだっけ?」
「愛知です」
 染めたばかりの暗めの茶髪がガラスの窓に反射して、まだ見慣れない自分の姿に胸がくすぐったい。
 長旅ご苦労様、と寮長に労われながらたどり着いた先は、三〇六と書かれた扉の前。
「ここだよ。どうぞ」
 促されてコンコンとノックをすると、中から「はーい」とのんびりとした声が聞こえてきた。
「失礼します」
 ドアノブを引いて扉を開くと、決して広いとは言えない室内が視界に広がった。
 端に置かれた二段ベッドが部屋の大半を占めていて、奥には日当たりが良さそうな小窓と、勉強机が二つ並んで置かれている。
「あの、先輩は?」
 返事がしたのに部屋には誰もいない。困惑していると、ギシッと何かが軋むような音がした。
 視線を向けると同時に、ミルクココアのような色の髪をした青年が、二段ベッドの上段から顔を出した。
 どうやら今日から俺のルームメイトになる人はこの人に違いないらしい。
「新入生?」
「はい、小木曽琉生(るい)と申します」
 姿勢を正して彼を見上げて答えるが、どこか物憂げな雰囲気を持つ彼の表情が変わることはない。
城所(きどころ)橙士。よろしく」
 遠くからでも、彼が整った顔立ちをしていることはわかった。特に笑うこともなく、ぼんやりとした目でこちらを見下ろすその人。
 こうして俺と燈士先輩の、一つ屋根の下での共同生活が幕を開けた。