泣いていたのは、きみの影。


 俺は今感じていることを、素直に答えることにした。

「……思ったことは、あるかもしれない」
「ほんと?」
「うん」
「……どうして?」
「んー……うまく言葉にはできないけど。なんていうか、影があるってことはつまり光もあるわけじゃない」
「……うん」
「光っていうと、真っ先に太陽が思い浮かぶよな。それに照らされる影は、真実を知ってるみたいなイメージ」

 ──おてんとさまは、なんでも知ってる。
 ──嘘をついたらいけないよ。おてんとさまが見ているからね。
 昔々、祖父母にそんなことを言われたような気がする。
 志乃原はゆっくりと目を伏せた。

「上野くんって、不思議だね」
「そう?」
「変な意味じゃなくてね。なんでだろう……話すと、ちょっと楽になるかも」

 そう言ってうっすらと微笑んだ志乃原の影は、それまでどこか不安そうに彼女にぴったりとくっついていたのが嘘のように緩んだ──ように見えた。いや、「見えた」んじゃない。俺にはそう感じた。
 彼女の影は、まるでそれ自体が感情を持っている。
 しかも、志乃原自身よりも正直な感情を。
 そんな現象あるはずないのに、俺の中の何かが確信を持っている。

「そろそろ帰らなきゃ。……ありがとね、上野くん」
「あ……いや、何もしてないけど」
「ううん。してる」

 志乃原の笑みは相変わらず淡い。
 そしてその影は、最後まで笑ってはいなかった。
 見送るためにドアの横まで行くと、ふと彼女が立ち止まる。

「ねえ、上野くん」
「なに?」
「また……話、聞いてくれる?」

 少し俯き気味に言うその声は、かき消えてしまいそうに弱かった。

「もちろん。俺で良ければ」
「……ありがとう」

 そう言って去っていく志乃原の背中は寂しそうで、それでもその影はどこか安心したように広がっていった。