「なぁ、洋平」
名前を呼ばれて振り返る。俺は口の中の唐揚げを飲み込んでから、声の主、森田の方を向いた。
「どしたん?」
「お前、クール王子と友達なんか?」
クール王子……?
誰だ、それ。
俺は首を傾げる。
「誰、クール王子って」
「えっ? 知らないのか? ほら、さっき来てただろ……相原航のことだよ」
相原航。
航のフルネームだ。
俺は、ますます意味が分からなくなる。航が、王子?
意味が分からなかった。
「航、そんなふうに呼ばれてるの?」
「ああ、入学と同時にな……」
一年のくせに、生意気だよな、と森田は息を吐く。
「あの顔、身長、おまけに頭も良いときたもんだ。モテモテ大魔王だぞ?」
王子なのか大魔王なのか、そこをはっきりして欲しい。ま、どうでも良いけど……俺は唐揚げを口に運ぶ。
「なんで、王子?」
俺の言葉に、森田はふうと息を吐く。
「そりゃ、モテる男は王子と呼ばれるさ」
「へぇ……そんなもんなんだ」
「反応薄っ! お前ら友達なんだろ? なんか無いのか……女の子の紹介とか」
「友達……っていうか、幼馴染っていうか」
そう。
俺は友達、幼馴染だと思ってる。
航の態度がそっけなくても、心は繋がっていると思っている。
だから、さっき便覧を借りに来たんだって……けど。
「……友達に、先輩って言うか?」
「え? 先輩?」
今度は森田が首を傾げた。
「王子がそう言うのか?」
「ああ、うん……まぁ……」
森田は、うーんと考えてから俺に言う。
「あんまり、言わないかもなぁ」
「……そうだよな」
「何? 喧嘩したとか?」
「喧嘩なんて……」
そんなことをするほど会話していない。俺は「なんだかなぁ……」と白米を箸でつつく。
変だと思う。
だって、航が高校に入学するまでは名前で呼び合っていた。
「航」
「洋平」
それが当たり前だった。
それなのに、久しぶりに向こうから来たと思ったら「先輩」なんて呼んでくる。
変だ……モヤモヤする。
前みたいに「洋平」って呼び捨てにしてくれよ。そんで、くだらない話で盛り上がろうよ……。
それに、航はそんなクールじゃないだろ?
俺のしょうもないギャグで、簡単に笑ってくれるじゃないか。
また廊下がざわざわし出した。俺はそっちを見る。そこには、やっぱり航が居た。奴はこっちに向かって歩いて来て、スッと俺が貸した便覧を渡してきた。
「これ、ありがとう、ございます」
「あ、うん……」
俺はそれを、少し戸惑いながら受け取った。
そっけない、態度に。
敬語を使う、航に。
「それじゃ……」
「あ、待って!」
そそくさと教室を出て行こうとする航を、俺は引き留めた。
「あのさ、ちょっと相談したいことがあるから、放課後、一緒に帰れない?」
「え……」
航は少し困ったような表情になった。
俺は、引かずに続ける。
「大事な話なんだ!」
「……分かり、ました。校門で待ってます」
そう言い残し、航は教室から出て行った。
俺たちのやり取りを見ていた森田が、俺に遠慮がちに声を掛ける。
「お前ら、ホンマに友達なん?」
「……俺は、そう思ってる」
正直、自信が無くなってきたが、俺は森田にそう答えた。
名前を呼ばれて振り返る。俺は口の中の唐揚げを飲み込んでから、声の主、森田の方を向いた。
「どしたん?」
「お前、クール王子と友達なんか?」
クール王子……?
誰だ、それ。
俺は首を傾げる。
「誰、クール王子って」
「えっ? 知らないのか? ほら、さっき来てただろ……相原航のことだよ」
相原航。
航のフルネームだ。
俺は、ますます意味が分からなくなる。航が、王子?
意味が分からなかった。
「航、そんなふうに呼ばれてるの?」
「ああ、入学と同時にな……」
一年のくせに、生意気だよな、と森田は息を吐く。
「あの顔、身長、おまけに頭も良いときたもんだ。モテモテ大魔王だぞ?」
王子なのか大魔王なのか、そこをはっきりして欲しい。ま、どうでも良いけど……俺は唐揚げを口に運ぶ。
「なんで、王子?」
俺の言葉に、森田はふうと息を吐く。
「そりゃ、モテる男は王子と呼ばれるさ」
「へぇ……そんなもんなんだ」
「反応薄っ! お前ら友達なんだろ? なんか無いのか……女の子の紹介とか」
「友達……っていうか、幼馴染っていうか」
そう。
俺は友達、幼馴染だと思ってる。
航の態度がそっけなくても、心は繋がっていると思っている。
だから、さっき便覧を借りに来たんだって……けど。
「……友達に、先輩って言うか?」
「え? 先輩?」
今度は森田が首を傾げた。
「王子がそう言うのか?」
「ああ、うん……まぁ……」
森田は、うーんと考えてから俺に言う。
「あんまり、言わないかもなぁ」
「……そうだよな」
「何? 喧嘩したとか?」
「喧嘩なんて……」
そんなことをするほど会話していない。俺は「なんだかなぁ……」と白米を箸でつつく。
変だと思う。
だって、航が高校に入学するまでは名前で呼び合っていた。
「航」
「洋平」
それが当たり前だった。
それなのに、久しぶりに向こうから来たと思ったら「先輩」なんて呼んでくる。
変だ……モヤモヤする。
前みたいに「洋平」って呼び捨てにしてくれよ。そんで、くだらない話で盛り上がろうよ……。
それに、航はそんなクールじゃないだろ?
俺のしょうもないギャグで、簡単に笑ってくれるじゃないか。
また廊下がざわざわし出した。俺はそっちを見る。そこには、やっぱり航が居た。奴はこっちに向かって歩いて来て、スッと俺が貸した便覧を渡してきた。
「これ、ありがとう、ございます」
「あ、うん……」
俺はそれを、少し戸惑いながら受け取った。
そっけない、態度に。
敬語を使う、航に。
「それじゃ……」
「あ、待って!」
そそくさと教室を出て行こうとする航を、俺は引き留めた。
「あのさ、ちょっと相談したいことがあるから、放課後、一緒に帰れない?」
「え……」
航は少し困ったような表情になった。
俺は、引かずに続ける。
「大事な話なんだ!」
「……分かり、ました。校門で待ってます」
そう言い残し、航は教室から出て行った。
俺たちのやり取りを見ていた森田が、俺に遠慮がちに声を掛ける。
「お前ら、ホンマに友達なん?」
「……俺は、そう思ってる」
正直、自信が無くなってきたが、俺は森田にそう答えた。



