筆と恋と春を待つ姫

第3話「昔のように」

◯晴彦の寝室
咲良を抱きしめる晴彦。
咲良「お、起きてたの?」
取り繕うように言う咲良。
晴彦「身体が冷たいですね……」
咲良を見つめて微笑む晴彦。
晴彦「今夜は冷えますから、一緒に寝ますか?」
咲良(えええ?!)
人が変わったような晴彦に驚く咲良。
そっと布団に引き寄せる晴彦。
晴彦「……あったかいですか?」
優しく微笑む晴彦を不思議そうに見つめる咲良。
咲良(晴彦の笑顔、久しぶりに見た……そういえばこんな風に笑う人だったなぁ)
晴彦「どうかされましたか?」
咲良「う、ううん……なんでも」
咲良(これは……筆姫の能力によるものなの? だけど私にはその能力は受け継がれていないはずだし、晴彦もそのことを知っているんじゃ……)
晴彦「おやすみなさい、咲良様……」
咲良「お、おやすみ……」
目を瞑る晴彦。
咲良(なんだか安心するなぁ……子どもの頃に戻ったみたい。けどきっと明日には、元に戻っているんだろうな……)
眠りにつく咲良。

◯朝、晴彦の寝室
目を覚ます咲良。
晴彦と目が合う。
晴彦「おはようございます、咲良様」
満面の笑みの晴彦。
咲良(ええっ? 戻ってない??)
咲良の耳元に近づく晴彦。
晴彦「今日はお休みですよね? ずっと一緒にいられますね」
嬉しそうな晴彦。
真っ赤になる咲良。
咲良「そ、そそ、そうねっ」
咲良(どうして術が解けてないのぉ~??)

◯雪村家の居間
晴彦「他の人達はお出かけ中のようですね」
咲良「そうね」
少しほっとする咲良。
晴彦が食事を持ってくる。
晴彦「朝食です。お召し上がりください」
咲良「は、晴彦も一緒に食べましょうよ」
晴彦「俺は……身分が違いますので」
咲良「そんなこと言わないで。二人しかいないわけだし、お願い」
晴彦「……咲良様に頼まれては仕方ありませんね」
そう言いつつも嬉しそうな晴彦。
咲良「やったー」
並んで朝食を食べる幸せそうな二人。

◯雪村家の庭
薬草を摘む二人。
咲良(懐かしい……小さい頃はよくこうやって)
晴彦「この薬草でいいですか?」
咲良「ええ、ありがとう」
咲良(例え能力のことが暗示による嘘でも、薬の効果は本物のはず。薬作りは信じてくれている人々を騙しているせめてもの罪滅ぼし。子どもの頃から薬草や病気や怪我についてはたくさん研究をしてきたつもり)
晴彦「どうかされたのですか?」
心配そうに覗き込む晴彦。
咲良「いいえ、大丈夫。ねぇ晴彦。昔のこと覚えてる? 私達が子どもだった頃のこと」
晴彦「いいえ」
咲良「覚えてないの?!」
咲良(晴彦が励ましてくれたから頑張れていたのに……いつから変わってしまったんだろう)
咲良「ねぇ、晴彦。様って付けるのやめて、名前で呼んでほしい」
晴彦「それは……咲良様の頼みでもできません」
咲良「どうして……今は他に誰もいないのに」
晴彦「……できません」
咲良の父「何をやっている」
怖い顔で二人に近づく咲良の父。
咲良「お父様」
咲良の父「馴れ馴れしく娘に近寄るな」
どんっ
晴彦を押す咲良の父。
咲良「お父様! 私は今療養中です。晴彦は身の回りの世話をしてくれているだけよ」
晴彦「……」
咲良の父「……そうかい咲良」
晴彦を睨む咲良の父。
咲良の父「いいか。自分の立場を忘れるなよ」
そう晴彦に言い放ち咲良の父は立ち去る。
咲良「ごめんね。晴彦」
晴彦「咲良様、ありがとうございます……」
咲良(晴彦のことは私が守る)
晴彦の手を握る咲良。
驚く晴彦。
咲良「だけど、どうしてお父様達はあなたにここまで辛くあたるの」
晴彦「それは……」
晴彦はどこか言いづらそうに言う。
晴彦「咲良様。鬼の話は聞いたことがありますか?」
咲良「鬼?」