筆と恋と春を待つ姫

第2話「好き」

◯離れ
睨み合う晴彦と使いの男。
使いの男「なんだ貴様は」 
晴彦「そちらこそ何なんですか? いきなり訪ねて来て不躾では?」
使いの男「何だと?」
咲良「は、晴彦」
晴彦「やめてもらえます? 咲良様はお疲れなのですよ? それに他にも患者様がたくさん居られるのです。順番がありますので用があるなら予約を取ってください」
使いの男「一体何を言っている? 貴様は身分というものをわかっているのか?」
晴彦「み、身分など……」
身分と言う言葉に言い返せなくなる晴彦の前に出る咲良。
咲良「申し訳ありません。後日必ず向かいます。それまで仕事を入れずに回復に専念しますので、それで許してください。今日のところはお引き取り願えますか?」
晴彦「咲良様……」
使いの男「……早急にな」
晴彦を睨みながら帰っていく使いの男。
晴彦「咲良様……どうして」
咲良「領主様を怒らせるわけには」
晴彦「……あなた様も身分を気にされるのですね……」
咲良「ち、ちがうの」
晴彦は少し悲しそうに部屋を出ていく。
一人残された咲良。
咲良(晴彦を守ろうとして咄嗟にああ言っただけで、身分によって優先したわけじゃない……)
悲しい表情。
咲良(本当は身分なんてどうでもいい。晴彦にだってもっと普通に接してほしい。ご飯だって一緒に食べたいのに)
咲良「あ……」
咲良はおにぎりを渡しそびれたことに気づく。

◯晴彦の寝室
咲良「晴彦、おにぎり……」
布団に横になっている晴彦。
咲良(寝ているの? やっぱり晴彦も疲れているんだ)
悲しそうな顔で晴彦の背中を見る咲良。
咲良(また晴彦に嫌われてしまった……もし本当に私に能力があるのなら、晴彦に「好」という文字を書いたらどうなるかな。嫌いにならずにいてくれるのかな……)
起こさないようにそっと指で晴彦の背中に「好」と書く咲良。
むくりと起き上がる晴彦。
咲良「あ、え……起きてたの?」
晴彦は咲良を引き寄せぎゅっと抱きしめる。
驚く咲良。
晴彦「……好きです、咲良様。誰よりもずっと……」