君に伝えたい三つのこと

 将成が死んで、一週間が経った。

 彼が死んだことがまだ信じられなかった。
 彼の葬式に参列したり、お墓参りなどに行っているはずなのに。
 けれど健さんの家に行くと、将成の部屋に生きた証が残っていても、彼自身がいないのを感じると、やっぱり将成はこの世界からいなくなってしまったのだなと痛感する。
 僕の心に空いた穴は、暫く塞がりそうになかった。

 大学には休まず通っていた。休んでしまえば夢は叶えられない。
 僕にとっての夢は母さんとの約束なのだ。
 僕にとっての夢は、母さんと将成を繋ぐ一本の線だ。
 だから諦めるわけにはいかないし、(ないがし)ろになどできない。


 ある日、僕は健さんに呼ばれて家を訪問することになった。
 なんでも、渡したいものがあるという。

「……お久し振りです、健さん」
「おう、よく来たな奥村くん」

 上がりなさい、と入室を促されて僕は玄関から部屋へと移動した。
 リビングには将成の写真が沢山飾られており、そのどれもが笑顔だった。写真の中には僕と写っているものや高校の文化祭で演じた『シンデレラ』の写真も飾られていた。本当にいい写真だった。
 ここに彼はまだ生きているんだと実感する。

「……あの、渡したいものって?」

 健さんが持って来た湯呑に口を付けながら僕は質問した。健さんは「そうだった」と言って将成の部屋へと行ってしまった。
 少しして戻ってくると、健さんは何やら洋菓子の入っていたであろう綺麗な丸い箱を持って来た。

「……将成がな、死ぬ前に俺に預けていたものなんだ。受け取ってもらえるかな」

 僕は箱を受け取る。中には何が入っているのだろう。知りたいような、でも知ってしまうのが怖いような、そんな複雑な気持ちが心に渦巻き始めた。
 けれどこれは彼からの最後の贈り物だ。僕はこれを受け取らずして終わるわけにはいかないのだ。覚悟を決めて箱の蓋を開ける。
 その箱の中に入っていたのは、あの時(・・・)書いていたであろう橙色の封筒。
 手紙の宛先は――僕だった。


 読み終えた時、僕の涙腺は崩壊した。
 彼が生きた軌跡を感じることができたから。
 彼が、この手紙の中に生きているのだと、確信することができたから。

「……まさなり……っ」と、嗚咽混じりに彼の名前を零す。そんな僕の背中を、健さんが優しく摩ってくれた。

 その大きな掌は、将成を彷彿とさせて、僕の心の穴を少しだけ埋めたのだった。