季節は巡り、秋を越え冬となった。
将成の調子はあの大学の一件以来良くなったり悪くなったりと波があり、なかなか面会許可が取れなかった。だから彼に会うのに時間が掛かってしまった。
理由は、時間のほかにもあった。
僕は未だにあの時の答えを出すことができていなかった。
けれど、このまま会わずにはいられない。僕は今日、覚悟を決めて病院へ来ていた。
今年の彼の誕生日には面会ができなかったので、彼の誕生日を祝おうと決めていたのだ。誕生日プレゼントを心ばかり用意してはみたけれど、正直喜んでもらえるかどうかは自信が無かった。
病室のドアを軽くノックする。「どうぞ」と声が掛かったので静かに入室すると、そこには健さんとすやすやと眠る将成の姿があった。
「やあ、奥村くん」
「あ……。お休み中、でしたか……」
出直します、と言い掛けたところで健さんに呼び止められた。
「構わないよ。何やら作業をしていた途中で眠ってしまっただけらしいから。バイタルも安定しているし、この通り、割と大きく声を出しても起きないだろ?」
健さんが将成の被っている布団をぽんぽんと叩く。健さんの言う通り、彼がそれしきのことで起きる様子はなかった。規則正しく寝息を立てて眠っている彼を見て、僕はほっとした。
「それで? どうしたんだい。将成に何か用だったんだろう?」
「あ、そう……なんですけど。これを彼に渡したくて……」
そう言って僕は彼への誕生日プレゼントの入った包装された箱を差し出した。
「これは」
「今年の誕生日プレゼント、当日に渡してあげられなかったので……」
「そうだったのか。わざわざすまないね」
健さんが苦笑した。
僕は、彼について何も聞けなかった。
僕は用が済んだので病室を去ろうとした。
その時、健さんが口を開いた。
「こいつな、最近奥村くんのことをよく心配していたんだよ」
「え?」
僕の足が自然と止まる。その続きを聞きたいと本能が告げた。そんな僕の様子を感じてか健さんは続きを話してくれた。
「救急車で運ばれた日のことを気にしていたみたいでな。初めてあそこまで大きな発作を君の前で起こしてしまったから、怖がっていたんじゃないかって」
「いや……そんなことは」
ない、と僕は言い切れなかった。
怖かった。本音を言えば、すごく。初めて彼の、あんなにも苦しそうな姿を見たから。正直、どうしたらいいのか分からなかった。
支えていこうと決めていたのに、覚悟が揺らいでしまった。そんな自分が情けなくて、今まで来れなかった。
「……正直、怖かったです。身近なひとで病気をしたひとなんていなかったですし、何度か発作は見たことがあったので大丈夫かなと思ってたんですけど……。自分を過信していました。覚悟が、足りなかったと反省しています」
「気にすることはないよ奥村くん。君が自分を責める理由なんてないんだ」
そう言って健さんは僕の頭を撫でる。その大きな掌は将成のように優しくて、温かくて、僕は何故か泣きそうになった。
病室を出て、携帯の画面を開く。ピロリンと、ネットニュースの通知が届いた。いつもは見ないネットニュースの記事だったけれど、その見出しに思わず指が動いた。
十二月二十四日、その日は夜中に雪が降るという。
ニュースを見て僕は「これだ」と思った。
同時に、不意に二年前のクリスマスのことを思い出して途端に寂しくなった。
終わりにしようと言われた、『あの日』との決着をつけるために。
この日までに必ず、もう一度彼に会おう。
そう、心に決めて。
将成の調子はあの大学の一件以来良くなったり悪くなったりと波があり、なかなか面会許可が取れなかった。だから彼に会うのに時間が掛かってしまった。
理由は、時間のほかにもあった。
僕は未だにあの時の答えを出すことができていなかった。
けれど、このまま会わずにはいられない。僕は今日、覚悟を決めて病院へ来ていた。
今年の彼の誕生日には面会ができなかったので、彼の誕生日を祝おうと決めていたのだ。誕生日プレゼントを心ばかり用意してはみたけれど、正直喜んでもらえるかどうかは自信が無かった。
病室のドアを軽くノックする。「どうぞ」と声が掛かったので静かに入室すると、そこには健さんとすやすやと眠る将成の姿があった。
「やあ、奥村くん」
「あ……。お休み中、でしたか……」
出直します、と言い掛けたところで健さんに呼び止められた。
「構わないよ。何やら作業をしていた途中で眠ってしまっただけらしいから。バイタルも安定しているし、この通り、割と大きく声を出しても起きないだろ?」
健さんが将成の被っている布団をぽんぽんと叩く。健さんの言う通り、彼がそれしきのことで起きる様子はなかった。規則正しく寝息を立てて眠っている彼を見て、僕はほっとした。
「それで? どうしたんだい。将成に何か用だったんだろう?」
「あ、そう……なんですけど。これを彼に渡したくて……」
そう言って僕は彼への誕生日プレゼントの入った包装された箱を差し出した。
「これは」
「今年の誕生日プレゼント、当日に渡してあげられなかったので……」
「そうだったのか。わざわざすまないね」
健さんが苦笑した。
僕は、彼について何も聞けなかった。
僕は用が済んだので病室を去ろうとした。
その時、健さんが口を開いた。
「こいつな、最近奥村くんのことをよく心配していたんだよ」
「え?」
僕の足が自然と止まる。その続きを聞きたいと本能が告げた。そんな僕の様子を感じてか健さんは続きを話してくれた。
「救急車で運ばれた日のことを気にしていたみたいでな。初めてあそこまで大きな発作を君の前で起こしてしまったから、怖がっていたんじゃないかって」
「いや……そんなことは」
ない、と僕は言い切れなかった。
怖かった。本音を言えば、すごく。初めて彼の、あんなにも苦しそうな姿を見たから。正直、どうしたらいいのか分からなかった。
支えていこうと決めていたのに、覚悟が揺らいでしまった。そんな自分が情けなくて、今まで来れなかった。
「……正直、怖かったです。身近なひとで病気をしたひとなんていなかったですし、何度か発作は見たことがあったので大丈夫かなと思ってたんですけど……。自分を過信していました。覚悟が、足りなかったと反省しています」
「気にすることはないよ奥村くん。君が自分を責める理由なんてないんだ」
そう言って健さんは僕の頭を撫でる。その大きな掌は将成のように優しくて、温かくて、僕は何故か泣きそうになった。
病室を出て、携帯の画面を開く。ピロリンと、ネットニュースの通知が届いた。いつもは見ないネットニュースの記事だったけれど、その見出しに思わず指が動いた。
十二月二十四日、その日は夜中に雪が降るという。
ニュースを見て僕は「これだ」と思った。
同時に、不意に二年前のクリスマスのことを思い出して途端に寂しくなった。
終わりにしようと言われた、『あの日』との決着をつけるために。
この日までに必ず、もう一度彼に会おう。
そう、心に決めて。
