君に伝えたい三つのこと

 将成が病院から外出許可をもらったのだと、佐央里さんから聞いた。
 大丈夫なのかと内心不安になるが、本人はけろっとしていた。まるで病気が嘘みたいだと思わされるくらいに、将成は元気だった。


 例の外出日、将成は何故か僕たちの通う大学に来ていた。
 将成はどこか落ち着いていて、リラックスした様子で構内を散策していた。
 付き添いとして健さんが来ており、将成は佐央里さんと談笑しながら構内の散歩道を進んでいる。
 僕は健さんの横を歩いていた。彼女たちの会話は聞こえなかった。

「本当に、健さんが許可を出したんですか?」
「ああ。出したよ」

 半ば信じられなかった。将成のことを誰よりも心配しているはずの健さんが、許可を出すことが信じられなかった。もちろん佐央里さんも同じことを言っていたらしい。余命いくばくもないひとを外に出すだなんて、と。
 僕もそう思ったけれど、それだけが『治療』ではないのだろう。
 病は気から。
 健さんが言いたいことはきっと、そういうこと(・・・・・・)なのだと思った。

「なあ、この大学広過ぎねぇ?」
「なに弱気になってんのぉ。まだまだ序の口よ」
「ええー?」

 将成が笑っている。そんな彼の様子を見て僕は少しだけ安心した。
 内容こそ聞こえはしなかったけれど、旧知の仲で戦友の佐央里さんには何でも話せるのだろう。その特権が、今の僕にはないことを実感して少しだけ佐央里さんに嫉妬した。

「……将成、時間だ」

 不意に隣から声が掛かる。健さんが将成に注意したのだ。
 将成は「はい」と素直に健さんの言葉に従った。

「じゃあ、俺はそろそろ病院に戻るよ。午前中だけなんだ、外出許可が下りてるのは」
「そうだと思った」
「いい気分転換になったよ。海音もありがとう、付き合ってもらって」
「いや……僕は何も……」

 本当に何も、僕はしていない。ただ君の後ろを……楽しそうにしている君を見ていることしかできなかった。僕は申し訳なくなってしまい、視線を逸らしてしまった。この間の話なんて、聞ける雰囲気じゃなかった。

「じゃあ――」

 将成が帰ろうと、僕たちの方へ足を伸ばした、その時だった。

「――っ、ゔっ……!」

 将成が――発作を起こしたのだ。
 周りにいた大学生たちが「きゃー」と声を上げる。佐央里さんが、目の前で倒れた将成の介抱を始め、健さんは救急車を呼んでいた。僕は、立ち尽くすばかりで、手際の良い二人に対して何もできなかった。

「将成……っ」
「将成ぃ、どこが痛い? 胸?」

 ゼヒゼヒ(・・・・)と変な呼吸をしながら胸を抑える将成が、佐央里さんに支えられながら彼女の質問に答えようとしていた。救急車に連絡を終えた健さんが戻ってきて、将成の支える役を彼女から変わる。佐央里さんは現場に慣れていて、将成の脈を計り始めた。

「げほっ、ごほ……。ごめ、兄ちゃ……」
「謝るな、喋るな、大丈夫だ。もうすぐ救急車が来る。それまで踏ん張れ」

 将成は気を張っているのも限界らしく、ぐったりと健さんの腕を借りながら体の力を抜いている。恐らくそれが彼にとって一番楽な姿勢なのだろう。

「あ、あの! 救急車が来ました!」

 学生のひとりが教えてくれた。

「ありがとうございます、こっちです!」

 救急隊員が担架を持ってこちらにやってくる。これでひと安心だ。

「付き添いには俺が行く。佐央里と奥村くんは……」
「私はあとで行くわ。奥村クンはどうする?」
「僕は……」

 救急車に運ばれていく将成を見守る。
 僕は……答えを出すことができなかった。