彼の余命宣告を聞いてから僕の大学生活は徐々に変化していった。
まず佐央里さんと何故か頻繁に会うことが増えた。というのも彼女もまた将成の余命の話を健さんのつてで知っていて、大学も学部も同じことから将成のお見舞いに一緒に行くことが増えたのだ。
中学からの僕を知っている友人(いるかも分からないけれど)が、今の僕を見たらどう思うだろう。当時の僕でさえ『ありえない』と叫ぶだろうね。こうして友人を作ることができたのは、ひとえに、将成のおかげだ。過去に裏切られたからといって、僕はもう彼に対して何も期待はしていなかった。
けれど、もし本音を言えるのなら、きっと僕は未だに将成のことを好きなのかもしれない。未練がましいことこの上ないと思うけれど、この気持ちは『本物』だ。
「なにしてんの」
「わっ、ちょ、見んなよ!」
大学の考査があり、あまりお見舞いに行けていなかった僕は久しぶりに将成に会いに来ていた。夏休みが始まったのである。佐央里さんは用事があるとかで今日は来られなかった。
病室を覗けば将成が起きていた。元気そうでよかったと安心していると、彼は何やら手紙を書いていた。
その便箋は、以前僕が誕生日にあげたあの橙色の便箋だった。
(使ってくれてるんだ)
僕は思わず感動した。ちらりとしか見えなかったが、将成の字はとても綺麗だった。
「それ、誰宛の手紙なの」
「内緒だ!」
頬をぷくりと膨らませ、僕に可愛らしく威嚇する将成。恥ずかしくなったのか便箋は隠されてしまった。可愛らしくしても、かっこよさは隠しきれていない。将成らしいと僕は笑った。
「そういえばもうすぐ誕生日だろ。二十歳の」
将成に言われて僕はハッとした。忙しかったせいか自分の誕生日など忘れていた。その忙しさにはもちろん将成も含まれていた。
「それを言うなら君も近いでしょ、誕生日」
「そっか。そうだな! 俺も二十歳だ!」
大人になれないと言われてきた彼にとって、成人になる想いは計り知れない。屈託なく笑う将成を見て僕も微笑んだ。
「やっと大人の仲間入りだな。長かったな〜」
彼の『長い』は、どれだけ気が遠のく年月であっただろうか。
それを考えるといたたまれない気分になるが、将成に気付かれてはいけない。妙な気を回してしまってはいけない。……まあ、考えすぎも良くないから、このことに関してはもう考えないようにしようと心に言いつける。
「何か欲しいものはある?」
「欲しいものか……。特にはないけど、して欲しいことならあるぞ」
「え、なに」
僕は将成のお願いを聞くのが初めてな気がして、妙に気分が上がる。頼られているような気がして嬉しくなったのだ。
しかし、彼のお願いは思っていたお願いとは、違った。
「佐央里と付き合って欲しいんだ」
「――は?」
僕の中の何かがガラガラと崩れ落ちた、気がした。
「佐央里も海音のこと、なんだかんだ気に入ってるみたいだし、海音もまんざらでもないかなと思って」
突然何を言い出すんだこの男は。前言撤回だ。許そうと思っていたが、やはり許さないでおこう。反省の色が全く見えない。そもそもあの二年前の出来事を彼が憶えているかも分からないが。
けれどきっとこの発言にはちゃんと彼なりに何か理由があるのだと思うから、僕はこの場では否定せず、後日佐央里さんに真相を確かめてから答えることにした。
まず佐央里さんと何故か頻繁に会うことが増えた。というのも彼女もまた将成の余命の話を健さんのつてで知っていて、大学も学部も同じことから将成のお見舞いに一緒に行くことが増えたのだ。
中学からの僕を知っている友人(いるかも分からないけれど)が、今の僕を見たらどう思うだろう。当時の僕でさえ『ありえない』と叫ぶだろうね。こうして友人を作ることができたのは、ひとえに、将成のおかげだ。過去に裏切られたからといって、僕はもう彼に対して何も期待はしていなかった。
けれど、もし本音を言えるのなら、きっと僕は未だに将成のことを好きなのかもしれない。未練がましいことこの上ないと思うけれど、この気持ちは『本物』だ。
「なにしてんの」
「わっ、ちょ、見んなよ!」
大学の考査があり、あまりお見舞いに行けていなかった僕は久しぶりに将成に会いに来ていた。夏休みが始まったのである。佐央里さんは用事があるとかで今日は来られなかった。
病室を覗けば将成が起きていた。元気そうでよかったと安心していると、彼は何やら手紙を書いていた。
その便箋は、以前僕が誕生日にあげたあの橙色の便箋だった。
(使ってくれてるんだ)
僕は思わず感動した。ちらりとしか見えなかったが、将成の字はとても綺麗だった。
「それ、誰宛の手紙なの」
「内緒だ!」
頬をぷくりと膨らませ、僕に可愛らしく威嚇する将成。恥ずかしくなったのか便箋は隠されてしまった。可愛らしくしても、かっこよさは隠しきれていない。将成らしいと僕は笑った。
「そういえばもうすぐ誕生日だろ。二十歳の」
将成に言われて僕はハッとした。忙しかったせいか自分の誕生日など忘れていた。その忙しさにはもちろん将成も含まれていた。
「それを言うなら君も近いでしょ、誕生日」
「そっか。そうだな! 俺も二十歳だ!」
大人になれないと言われてきた彼にとって、成人になる想いは計り知れない。屈託なく笑う将成を見て僕も微笑んだ。
「やっと大人の仲間入りだな。長かったな〜」
彼の『長い』は、どれだけ気が遠のく年月であっただろうか。
それを考えるといたたまれない気分になるが、将成に気付かれてはいけない。妙な気を回してしまってはいけない。……まあ、考えすぎも良くないから、このことに関してはもう考えないようにしようと心に言いつける。
「何か欲しいものはある?」
「欲しいものか……。特にはないけど、して欲しいことならあるぞ」
「え、なに」
僕は将成のお願いを聞くのが初めてな気がして、妙に気分が上がる。頼られているような気がして嬉しくなったのだ。
しかし、彼のお願いは思っていたお願いとは、違った。
「佐央里と付き合って欲しいんだ」
「――は?」
僕の中の何かがガラガラと崩れ落ちた、気がした。
「佐央里も海音のこと、なんだかんだ気に入ってるみたいだし、海音もまんざらでもないかなと思って」
突然何を言い出すんだこの男は。前言撤回だ。許そうと思っていたが、やはり許さないでおこう。反省の色が全く見えない。そもそもあの二年前の出来事を彼が憶えているかも分からないが。
けれどきっとこの発言にはちゃんと彼なりに何か理由があるのだと思うから、僕はこの場では否定せず、後日佐央里さんに真相を確かめてから答えることにした。
