君に伝えたい三つのこと

 あの後僕は、健さんに連絡をして海水浴場に将成を迎えに来てもらった。
 迎えに来てもらったのは、将成の所為である。救急車を呼ぼうとしたところ将成に止められてしまったからだ。
 体調が思わしくないのに救急車に乗りたくないという我儘(わがまま)を言う彼に内心腹が立ったが、今ここで将成(かれ)の気分を損ねさせれば()をされるか分からなかった。

「……見つけてくれて助かった。ありがとう奥村くん」
「いえ、僕は、何も……」

 病院に着き、無事に将成は病室へと運ばれていった。
 ひとまずは安心だ。
 健さんが休憩スペースに控えていた僕に缶コーヒーを持ってきてくれた。彼が入院沙汰(ざた)になると、いつも『健さん』と『缶コーヒー』がセットでくるというイメージがついてしまった。僕は恐縮しながら健さんから缶コーヒーを受け取る。プルトップを開け中身をひと口飲む。ほろ苦い味が口いっぱいに広がった。

「……将成な、この間、余命宣告(・・・・)されたんだ」

 健さんが缶コーヒーを一口飲む。

「最近調子が戻らなくてな。検査したら、もう永くないって言われたんだ。小さい頃から散々大人まで生きられないと言われてきていたから、なんとなく、覚悟はしていたんだが……。いざ現実を目の前にすると、どうしたらいいのか……わかんねえな」

 健さんの声は震えていた。当たり前だ。愛している家族の命の宣言をされたのだ。それも、将成も自分で聞いたという。
 将成は本当に強いひとだ。そして、弱さを見せないひとだ。
 あの海に行ったのは、現実逃避をしたかったからだろうか。いや、きっと家族に自分の弱さを見られたくなかったからだと僕は思う。

「…………あと……どのくらいなんですか……」

 僕は気丈を装って健さんに問う。健さんは言い(にく)そうに、それでも教えてくれた。

「保って、あと半年だそうだ」

 あと半年。それを『長い』と思うのか、『短い』と思うのか。僕はこの時、どちらに感じただろうか。感情がぐちゃぐちゃでこの時は何も考えられなかった。
 恐らく、険しい顔をしていたからだろうか。健さんが僕に微笑んだ。

「……大丈夫だ。少なくとも、成人はできる。小さい頃からの夢だった大人になることは叶えられるんだ。本当に、それだけは良かったと思う」

 健さんが僕を見た。その表情は、将成によく似ていた。

「君と、君のお母さんのおかげで将成は今日まで生きてこられた。将成を見捨てないでくれて、本当にありがとう……‼」

 そう言って健さんは頭を下げた。僕はどうしていいのか分からず挙動不審になってしまった。けれどここで僕が「そんなことはないです」と否定してしまえば、それは母さんの今までも否定することになる。
 僕は、頷くことしかできなかった。