鳴り止まない拍手の中、君の姿は見えなかった。
天川くんが舞台袖にいない。さっきまで一緒だったはずなのに、いつの間に消えてしまったのだろう。
なにか、嫌な予感がする。
僕はどこに行ったのか、スタッフや他のキャストに聞いてみる。しかし誰も彼の向かった場所を知らなかった。
ふと、本当に何を思ったのか、僕は去年彼と出会った音楽室に足を向けた。着替えることも忘れて。どうしてだか分からなかったが、きっと音楽室にいると思ったのだ。
音楽室に着きドアにある小さな窓から中を覗いてみると、彼は『あの日』の音楽室にいた。ゆっくりとドアを引き音楽室に入る。天川くんは入室した僕に気づいていないようで、ピアノの椅子に座り大きな窓から校庭に並ぶ色づき始めていた紅葉をずっと眺めていた。
「天川く――」
「おれのせいでごめん」
僕が名前を呼びかけると遮るように彼は謝った。彼は僕を見てくれなかった。
「え……」
「発作、起こるなんて思わなかった。みんなに迷惑かけた。ごめん」
声が、ふるっていた。
悔しい。情けない。そんな感情が、彼の中で渦巻いていた。
(落ち混んでるんだ……)
大丈夫と言った手前、自分が失敗してしまったことに情けなく思って落ち混んでるんだね。
なんとかして彼を励ましてあげたい。けれども僕はなんて声を掛けてあげればいいのか、思いつかなかった。
ふと目線を下げる。
僕はまだ、『シンデレラ』であった。
「……『私は貴方を助けたいの。だからどうか、自分の気持ちを、隠さないで……』」
僕はシンデレラのセリフを一節、彼に向けて読んだ。
そしてこれは本音だ。僕は君を助けたい。だから苦しいとか、悔しいとか、もっと気持ちを教えて欲しい。感情を押し込む君の悪い癖を知っているから。
「――少しは、僕を頼ってよ、将成」
この時の僕は、どんな顔をしていたのだろう。少し、辛そうな顔をしていたかな? でなければ君が、泣きそうな顔をするはずがないもんな。
将成が僕に振り向き、そして抱きしめた。力強く抱きしめられて、僕は何故かホッとした。今君が僕に、僕だけに見せているその姿は、弱さなどではないよ。僕は将成の背中を優しくぽんぽんと叩く。将成の顔が押し付けられた僕の肩部分が濡れる。
きっと、彼はやっと自分をさらけ出せたのだ。良かった。そう思うと同時に、音楽室のドアが開かれる。誰だろうと振り向くと、そこには佐央里さんと健さんがいた。
「……分かっているな、将成」と健さんが言う。
「分かってる……」と将成が言う。
そのふたりの雰囲気から、事態は深刻であることが伺えた。
こうして僕たちの文化祭の発表は終わった。
無事に終わったはずなのに、僕の胸中はざわついたままだ。
二日目、彼は来なかった。その理由は、なんとなく分かっていた。
天川くんが舞台袖にいない。さっきまで一緒だったはずなのに、いつの間に消えてしまったのだろう。
なにか、嫌な予感がする。
僕はどこに行ったのか、スタッフや他のキャストに聞いてみる。しかし誰も彼の向かった場所を知らなかった。
ふと、本当に何を思ったのか、僕は去年彼と出会った音楽室に足を向けた。着替えることも忘れて。どうしてだか分からなかったが、きっと音楽室にいると思ったのだ。
音楽室に着きドアにある小さな窓から中を覗いてみると、彼は『あの日』の音楽室にいた。ゆっくりとドアを引き音楽室に入る。天川くんは入室した僕に気づいていないようで、ピアノの椅子に座り大きな窓から校庭に並ぶ色づき始めていた紅葉をずっと眺めていた。
「天川く――」
「おれのせいでごめん」
僕が名前を呼びかけると遮るように彼は謝った。彼は僕を見てくれなかった。
「え……」
「発作、起こるなんて思わなかった。みんなに迷惑かけた。ごめん」
声が、ふるっていた。
悔しい。情けない。そんな感情が、彼の中で渦巻いていた。
(落ち混んでるんだ……)
大丈夫と言った手前、自分が失敗してしまったことに情けなく思って落ち混んでるんだね。
なんとかして彼を励ましてあげたい。けれども僕はなんて声を掛けてあげればいいのか、思いつかなかった。
ふと目線を下げる。
僕はまだ、『シンデレラ』であった。
「……『私は貴方を助けたいの。だからどうか、自分の気持ちを、隠さないで……』」
僕はシンデレラのセリフを一節、彼に向けて読んだ。
そしてこれは本音だ。僕は君を助けたい。だから苦しいとか、悔しいとか、もっと気持ちを教えて欲しい。感情を押し込む君の悪い癖を知っているから。
「――少しは、僕を頼ってよ、将成」
この時の僕は、どんな顔をしていたのだろう。少し、辛そうな顔をしていたかな? でなければ君が、泣きそうな顔をするはずがないもんな。
将成が僕に振り向き、そして抱きしめた。力強く抱きしめられて、僕は何故かホッとした。今君が僕に、僕だけに見せているその姿は、弱さなどではないよ。僕は将成の背中を優しくぽんぽんと叩く。将成の顔が押し付けられた僕の肩部分が濡れる。
きっと、彼はやっと自分をさらけ出せたのだ。良かった。そう思うと同時に、音楽室のドアが開かれる。誰だろうと振り向くと、そこには佐央里さんと健さんがいた。
「……分かっているな、将成」と健さんが言う。
「分かってる……」と将成が言う。
そのふたりの雰囲気から、事態は深刻であることが伺えた。
こうして僕たちの文化祭の発表は終わった。
無事に終わったはずなのに、僕の胸中はざわついたままだ。
二日目、彼は来なかった。その理由は、なんとなく分かっていた。
