目が覚める。
そんな合図が聞こえた気がした。
雨の音が本格的なものに変わっていた。
ゆっくりと目を開ける。景色は暗く、まるで闇の中だった。
ただ、眠る前とは違い、不思議とその闇は怖くはなかった。
――♩~♫~♩~
怖くなかったのは、彼の鼻歌が自然と聞こえてきたからだ。
(これは……ノクターン……)
僕が彼と初めて会った時に聞いた曲、ノクターン。
思えば彼の歌声は初めて聞く。あの時はピアノで弾いていたから。
ぽんぽんと体に振動が伝わっている。天川くんの手が僕の腹部辺りを優しく叩いていた。ノクターンが子守唄のようで、もう一度眠ってしまいそうになる。まるで赤子を寝かしつけているようだった。
「…………上手、だね……」
「♩~……ん? ああ、おはよう奥村。と言っても、もう夜だけど」
ゆっくりと体を起こして窓のガラスを通して外を見る。眠りに落ちる前までの記憶では、暗かったけれど、それでもまだ明るかった気がした。時計を確認すればあれから三時間以上は経過していた。外はもう真っ暗だった。
「迷惑かけてごめん」
せっかくの楽しい時間を、自分の所為で失ってしまったのだ。
僕は分かり易く項垂れる。天川くんの顔が見れない。
少しして「馬鹿だな~」と、頭をくしゃくしゃにされる。
「迷惑だなんて思ってないよ」
「そ、そう。それは、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
そう言って笑うと、もう一度天川くんに頭をくしゃくしゃにされた。
ふと、テーブルの上に置いてあった例のDVDのパッケージが視界に入った。つまらなかったのは体調が優れなかったことも要因かもしれないと思った。だから僕はもう一度見て、その真偽を確かめたいと思った。
「天川くん、あの映画もう一回、ちゃんと見てみよう。もしかしたら面白いかもしれないし」
「……奥村は優しいな。じゃあ、見てみるか?」
「うん」
そうして僕たちはもう一回、B級映画を見始めた。
中盤辺りを過ぎても、やはり盛り上がるには欠ける。
僕も天川くんも真剣に映画を見ていたが、面白さを見つけることは今のところできていなかった。
ふと、先ほどまで見ていた夢の内容を思い出した。
終盤戦、天川くんの集中力は限界に達していた。
映画の音声が静かになったタイミングで、僕は天川くんに伝える。
「母さんを、否定しないでいてくれてありがとう、天川くん」
「え?」
映画が終わった。
エンドロールが流れている。主題歌は誰の歌だろう? 映画の内容と合っている気がする。とてもいい曲だった。
「……やっぱりこの映画、つまらなかったね」
僕は、きっと笑っていた。
母さんのことを思い出しながら、笑っていた。
天川くんの表情が心配そうだったのは、僕の頬に涙が流れていたからだろう。
夏休みが明ければ、僕たちはまた戻ってしまうのかな?
君との『恋人』期間は、続いてはくれないのかな。
そうして、高校最後の夏休みが――終わりを告げた。
そんな合図が聞こえた気がした。
雨の音が本格的なものに変わっていた。
ゆっくりと目を開ける。景色は暗く、まるで闇の中だった。
ただ、眠る前とは違い、不思議とその闇は怖くはなかった。
――♩~♫~♩~
怖くなかったのは、彼の鼻歌が自然と聞こえてきたからだ。
(これは……ノクターン……)
僕が彼と初めて会った時に聞いた曲、ノクターン。
思えば彼の歌声は初めて聞く。あの時はピアノで弾いていたから。
ぽんぽんと体に振動が伝わっている。天川くんの手が僕の腹部辺りを優しく叩いていた。ノクターンが子守唄のようで、もう一度眠ってしまいそうになる。まるで赤子を寝かしつけているようだった。
「…………上手、だね……」
「♩~……ん? ああ、おはよう奥村。と言っても、もう夜だけど」
ゆっくりと体を起こして窓のガラスを通して外を見る。眠りに落ちる前までの記憶では、暗かったけれど、それでもまだ明るかった気がした。時計を確認すればあれから三時間以上は経過していた。外はもう真っ暗だった。
「迷惑かけてごめん」
せっかくの楽しい時間を、自分の所為で失ってしまったのだ。
僕は分かり易く項垂れる。天川くんの顔が見れない。
少しして「馬鹿だな~」と、頭をくしゃくしゃにされる。
「迷惑だなんて思ってないよ」
「そ、そう。それは、ありがとう」
「うん、どういたしまして」
そう言って笑うと、もう一度天川くんに頭をくしゃくしゃにされた。
ふと、テーブルの上に置いてあった例のDVDのパッケージが視界に入った。つまらなかったのは体調が優れなかったことも要因かもしれないと思った。だから僕はもう一度見て、その真偽を確かめたいと思った。
「天川くん、あの映画もう一回、ちゃんと見てみよう。もしかしたら面白いかもしれないし」
「……奥村は優しいな。じゃあ、見てみるか?」
「うん」
そうして僕たちはもう一回、B級映画を見始めた。
中盤辺りを過ぎても、やはり盛り上がるには欠ける。
僕も天川くんも真剣に映画を見ていたが、面白さを見つけることは今のところできていなかった。
ふと、先ほどまで見ていた夢の内容を思い出した。
終盤戦、天川くんの集中力は限界に達していた。
映画の音声が静かになったタイミングで、僕は天川くんに伝える。
「母さんを、否定しないでいてくれてありがとう、天川くん」
「え?」
映画が終わった。
エンドロールが流れている。主題歌は誰の歌だろう? 映画の内容と合っている気がする。とてもいい曲だった。
「……やっぱりこの映画、つまらなかったね」
僕は、きっと笑っていた。
母さんのことを思い出しながら、笑っていた。
天川くんの表情が心配そうだったのは、僕の頬に涙が流れていたからだろう。
夏休みが明ければ、僕たちはまた戻ってしまうのかな?
君との『恋人』期間は、続いてはくれないのかな。
そうして、高校最後の夏休みが――終わりを告げた。
