君に伝えたい三つのこと

『明日の夕方から肝試しをやろうと思います! 参加したいひとはこちらまで!』

 クラスのグループトークにメッセージが届いた。
 丁寧に場所のURLのリンクまで張ってある。
 グループトークにメッセージが入ったとき、僕は当初、行く気など微塵(みじん)もなかった。
 予備校の勉強をしている方がなんならマシだったし、クラスメイトに馴染みたいなんて考えたこともなかった。
 ただ、次に来たメッセージに、僕の心は思わず揺らいでしまった。

〈奥村、さっきのクラスの肝試しの話、一緒に行かないか?〉

 ああ、やっぱり君はずるいひとだ。
 天川くんに言われてしまったら、僕は、行かざるを得ないじゃないか。

 クラスの肝試しに行くと家族に言うと、父さんは「そうか......!!」と謎に涙ぐみ、お母さんは「気をつけてね」と笑顔で、美魚に至っては「かいくん、ふりょうになっちゃったの?」なんて、夜に遊びに行く僕を心配してくれた。
 いや、不良じゃないし。
 父さんが涙ぐんだのは、きっと僕が、やっと学生らしいことを始めたからだろう。

(……心配させてたんだろうなあ)

 最近になって、親の気持ちがわかるようになってきた。
 これもひとえに、天川くんのお(かげ)である。


「よ!」
「こんばんは、天川くん」

 肝試し当日、僕たちは待ち合わせをして、集合してから目的地へと向かおうと決めていた。
 天川くんは黒いカッターシャツにすらっとしたジーンズを履いていた。くそぅ、何を着ても()になる彼に劣等感を抑えきれない。対して僕は、この間の花火大会と同じような地味な格好であった。

「俺肝試しとか初めてなんだよな~。楽しみだ……あ、聞くの遅くなってごめんだけど、奥村はそういうの大丈夫なの?」
「多分。ホラー映画とか全然見れるし。ていうか大丈夫だから来たんだよ」
「そっか。奥村は強いんだな!」

 強いとかじゃなくて、単に興味がないんだよ。そう言いそうになったが、天川くんに褒められて嬉しくなった。まったく、我ながら単純だななんて思ってしまったのはここだけの話だ。

 目的地に着いた途端、天川くんが「うげっ」と固まった。僕は「どうし、」と途中まで言って、天川くんが固まった理由を理解した。

「あらぁ、将成ぃ。奇遇ねぇ?」

 さおり(・・・)さんが、いたのである。
 彼女は僕たちのクラスメイトではないはずだ。では何故このイベントに参加しているのか? 天川くんは本気で分からないという顔をしていた。

「お前、なんで……」
「GPSで」
「はっ――!?」
「ウ・ソ」
「はぁっ?」
「……冗談よぉ。ユリ(・・)に呼ばれたの。『暇してるなら来ない』かって」

 ストーカーじゃないわよ、と訂正されたけど、僕も彼女の天川くんへの執着の仕方を見てきたのでそうとしか見えなくなっていた。
 ユリ、さんはクラスメイトのひとりだろう。友達を作ることを避けていたせいで記憶は朧気(おぼろげ)だが、確かクラス委員の子だ。記憶力は良い方だけど、どうしてもひとに関しては記憶力は乏しい。
 それだけ僕はひとを信じてこなかったんだとこの瞬間思った。

「お前なら、俺のGPS知ってても可笑しくないんだよ」
「健くんから教えてもらってるけど、今日は使ってないわよぅ。信じてくれないの? 将成ひどぉい」
「…………教えてもらってるんだ……」
「……なぁに、何かご不満?」
「いや、なにも……」

 僕は思わず彼女から目を逸らした。
 不満とかではない、ストーカーに見えただけ。心の中で呟くのは許してくれ。

 じゃあ始めるぞー! クラス委員の男子から号令が掛かる。
 僕たちは話を止め、彼のいる方へととりあえず向かった。

「ここにクジがあるからこの中から1枚取って、同じ番号のひととペアになってください!」

 ペア。なるほど、平等だな。天川くんと一緒になれる確率は低いけれど、まあ、いいだろう。僕はクジを1枚引いた。
 引いた番号は『8』だった。

「全員引きましたかー?」

 この場にいるクラスメイトはおよそ15人程度。僕は面倒だなと思いつつ、同じ番号のひとを探す。

「……『8』番のひと、いますか?」
「――なんであんたが『8』番なのよ」
「え……?」

 僕の耳は、もしかして壊れたのかもしれない。その瞬間は、本気でそう思った。
 僕の後ろで不機嫌そうに、僕のペアとなる人物が立っていた。

 僕のペアは、さおりさん(・・・・・)だった。