観客の表情が、驚愕と恐怖に染まる。
 天上にいた身体にかかる速度は増していく。

 観客全員がこの後に起こる悲劇を想起した。
 しかし、悲劇は幻想に終わり、目の前で起こることは無かった。

 観客は、誰も気づかなかった。
 中空に伸縮性のある分厚い布が張り巡らされていることを。

 光学迷彩を応用して、公演開始前から存在していたトランポリンを隠していたのだった。
 着地する直前に身を翻し、足先からふわりと着地する。

 そしてまた飛び立つ。
 小さな輪が、待っている。

 一回り大きかったフープは、落ちる前にマナの手によって、元の方向へ切り離され、流されたのだろう。

 フープを掴んだ手を起点にして、輪の中へ勢いをつけて足からくぐり、背を預ける。

 いつからか舞っていた一匹の蝶は、輪の傍らで主の帰りを待っていた。

 観客が固唾を呑み、日の下に照らされたディスから目を離せないでいる。

〈スルスルスルスル…〉

 いつの間にかフープは、地上近くまで降りてきていた。