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[“6月” “踊り子”への憧れと尊敬]

 事務所に戻れば、ワカナは遅いと言いたげな表情をしていたが、直接それを言葉にすることは無かった。

 ヒカルは、気を取り直して仕事に取り掛かることにした。
 撤収作業よりも点検・収納作業の方が、業務量が多い。
 撤収時に忘れてしまった物が無いか確認し、消耗して買い換える必要のある備品をピックアップする。

(…衣装に、損傷した箇所は見当たらない。活動しやすいように、伸縮性の高い素材を使っているからなんだろうか。
 …ん?この部分って、このデザインだったっけ?)

 マナの衣装のタイツは、トランプのダイヤマークを模した網目状の装飾が施されている。
 しかし、それは太腿の前後にしか無かったはずだった。
 今見れば、脛部分にも同様のマークがあしらわれている。

(なぜ?)

「―さすが。鋭いね。」
 背後には、マナがいた。

「実はこの前の公演中に軽く破れてしまったみたいでね。
急遽、衣装管理担当の子に頼んだんだ。
あの子、器用だよね。助かった。」
「衣装って、1着しか無いんでしたっけ?」

「そう。大切なんだ。仲間との大事な思い出が詰まってる。
ヒカルも知っているように、初期の頃からずっと着てきたものだよ。」

(…)

「仕事が終わったら、執務室に来てくれる?」
「あ、ミーティングがあるんですけど…どうしましょうか。」
「ミーティングに出なくても支障無いように、資料渡しや伝達をワカナさんに任せてるから、問題ないよ。
 今回のミーティングは、いつもの業務連絡と、次の公演の準備に対する最終確認だから、真新しい情報はほぼ出ない。」

「わかりました。終わり次第、執務室に向かいます。」
「OK、待ってます。」

(…この衣装も、あのネックレスも全部、マナさんにとって替えの効かない物なんだ。)

 考え事をしていれば、あっという間に仕事は終わり、執務室に向かった。

「ヒカル、踊り子に興味ある?」

「…え?」

(…え?)

「君を推薦したいんだけど。」

「俺ですか!??」