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[“6月” やがて、夏が来れば]

 ―『泉門』は、事実上解散となった。

 あまりにも唐突なことだったため、世間は不仲説や解散を目論んだ陰謀など、好き勝手なことを吹聴していた。

 有りもしないことを言うのは良くないと思うものの、それほど衝撃的なことだったという点について、
スタッフの一人であるヒカルは共感していた。

 スタッフの誰一人も予想できなかったのだ。
 1週間前まで公演を行っていて、評判も非常に良く、その好評を受けて来年も公演があると、マナから聞いていた。

 少なくとも、マナは『泉門』としての活動を続けるつもりだったのだろう。
 最も『泉門』を愛していた人物と言っても、過言ではない。
 この出来事はトラウマになる程に、マナの心に傷を残したのではないかと、一部のスタッフから心配されていた。

 しかし、当の本人は、『泉門』としての公演を予定していた今期の公演を、最後まで走り抜けて、次の目標に進もうとしている。

(なんて、強い人なんだろう。
俺なら、きっと心が折れてしまうだろうな…。)

 夏は近づいてきている。
 株式会社〈泉門〉の総合的な責任者であるマナが存続すると言えば、スタッフも指示に従い、業務を続ける。

 スタッフ一同は、マナに対して恩を感じているのだ。
 スタッフの労働環境の整備や、業務効率化のためのマニュアル作成など、〈泉門〉がスムーズに運営できるようにと考えてくれたのはマナだった。

(俺には、何ができるだろうか…。)

 まずは、スタッフとしての務めを果たす。
 3人で出演するはずだった公演。
 しかし、マナは1人で全役目を背負う。

 せめて力になれるように、演目間の移動やサポートを行い、撤収も全力を尽くそう。

 ヒカルは、もうすぐ開演する公演に向けて、指定位置へ移動した。