「お待たせ……」

 目の前に見えてきたのは、駅前二宮金次郎の像。
そしてその前に立つ森田さん。

「小林……くん?」

 森田さんは目を見開き驚いた。それはそうだろう、なにせ僕のリュックにはミケとクロが入っている。がばりと口を開け中身が丸見えの状態で。

 ……おまけに僕の頭の上にはおもちが乗っている。

 重みで少しだけ首をまげている僕に、森田さんが駆け寄ってきた——次の瞬間だった。

「……かわいい!!」
 
 その黄色い声に、おもち達が、驚き瞬く間に逃げ出したのだ……!
 あれだけ、僕が引き剥がそうとがんばっても無駄だったのに⁉︎

 森田さんは逃げたおもち達を追おうとしたが、猫の足にはかなわない。残念そうに、見送りながら切なそうに口を開いた。

「私、とても猫が好きなんだけど……なぜか近寄ると逃げちゃうのよね」

 僕は思い出した。そうだ、そういえば——

「猫好きだと、猫が逃げちゃうらしいね……?」

 森田さんは頷いた。ということは超ド級の猫好きなのだろうか。

「ところで、ええと、待ち合わせの時間に遅れた?」
「ううん、大丈夫。時間ぴったりだったよ」

 森田さんはそういって、時計を指さす。たしかに13時ピッタリだ。待ち合わせに遅れなかったのは、初めてだ。

「でも怪我が……ひっかき傷がついてるわ」

 そういって、森田さんは僕を見上げるとカバンから絆創膏を取り出した。ペタッと頬に絆創膏が貼られる。

「じゃ、買い物に行こっか」

 猫はまだ苦手だけれど、おもち達のおかげで会話は尽きない。猫話に花が咲いた。

 ——まあ、今日くらい、今日だけは特別に……いいや、今日からは少しだけ猫を好きになってやろう。

 了