僕がまだお腹の中にいる頃の話だ。
 母が産気づいたのは、どこぞの有名な猫神社の境内だったらしい。
 救急車が入ることができず、騒ぎの中、その場所で僕が生まれた——そしてたくさんの猫が興味津々の様子で集まってきて、なめまくり、僕はくすぐったそうにずっと笑っていたそうだ。

 それだけなら、笑い話で済んだのだと思う。
 話はこれで終わらなかった。 
 物心ついたときから、やたらと僕は猫に好かれるのだ。

 猫はいつでも僕に遊ぼう! と、襲いかかってくる。学校に行くとき、出かけるとき、特にいちばんひどいのは待ち合わせ場所に向かおうとするときだ。何かを察知するのかそんな急ぐときに限って、やたらと近所の猫が僕につっかかってくるのだ。理由はもちろん、わからない。

 僕のことが好きだからだ、と母はいう。気まぐれな猫にたいした理由はないわ、と妹はいう。猫嫌いだとかえって猫がよってくるんだぞ、と父はいう。

 僕からいわせてみれば、これは呪われているに値する。

 そう、玄関扉を開け放った僕に飛びかかってきたのは——。

「させるか!」

 僕は持っていたリュックでガードした。弾かれつつ受け身をとって、僕の目の前に降り立ったのは隣の家の『クロ』である。その名のごとく黒色のオス猫だ。スリムで美ニャンと評判である。軽くて痩せているからか、スピードがある。

 だが、この見た目に惑わされてはいけない。タタタタタ、という必殺猫パンチを繰り広げてくるのだ。それも僕だけに。

 再び僕の顔をめがけ飛びかかってきた。身をかわし、そのまま逃げるように駅前に向かって僕は走った。だが、後ろを向いたのがよくなかった。リュックの口が大きく開いて、そのまま——クロは、僕のリュックの中に自らをシュートした。

「ああっ」

 思わず僕は悲鳴を上げる。
 クロをリュックから追い出そうと試みるがタタタタタ、という猫パンチを繰り出され、出すことができない。

 ……仕方なくリュックを背負う。にゃーご、とクロは勝利に酔いしれるように鳴いた。買い出しの荷物はこのままで入るだろうか。

 とにもかくにも、僕は待ち合わせ場所に向かうべく、歩き出した。