それは思い出すだけで腹が立つ。

「オイ、このゴミ片付けとけよー。あ、お前もゴミ箱入っていいけど」
「あっはっは! ウケる!」

数人の男子生徒が、ある少年の机に自分が食べたパンの袋やペットボトルを投げつけたのだ。
なんてこった。この教室ではイジメが起きている……(寝惚けて父の歯ブラシを使ってしまった時以来の衝撃だった)。

高三にもなってイジメとか精神年齢いくつだよ、と腸が煮えくり返った。
受験が目前なのにイジメする余裕があるなんて立派だな。さぞお勉強できるんでしょうねー……。

そこで突撃して主犯を引っぱたく度胸があればいいが、生憎そこまではりきりボーイじゃない。なのでここは別の作戦を決行することにした。
転校生が変な奴なら、いじめっ子の関心が俺に向いて彼がいじめられずに済むんじゃないかと。

挨拶も適当にして、暗いのにツンツンしためんどくさい奴を演じよう。名前も知らないけどあの大人しい子がこれ以上矢面に立たないよう……。

いじめは論外だ。俺はいじめられたことはないけど、バカにされる辛さなら知ってる。また、そういう時に助けてもらえる嬉しさも。

……昔、泣き虫だった頃はいつも傍で守ってくれる奴がいたな。

君の席はあそこね、と言われたので、そこの机の上に鞄を放り投げた。先生が「あれ、あんな子だっけ」みたいな顔をしていたけどスルーした。

隣の男子生徒が宜しく、と言ってくれたのを「あー」、と適当に返事する。態度悪くて申し訳なかったけど、全ては彼の為だ。隣の子は案の定、それ以降話し掛けてくれなくなった。

ぼっちの幕開け也。
関ヶ原の戦いとかを思い出しながら脚を組んで、窓の外を眺めた。さっきから授業の内容が全然分からなくて笑え……笑えない。

さすがに授業態度を悪くしたら内申に関わるので、教師の前では背筋ぴーんを心掛けた。元気な女子が何人も、「望って苗字珍しいねー」と話し掛けてきたが、全て「あー」とか「あ」「あっ」で済ませた。おかげで俺のあだ名はカオナシになった。

ていうかおかしいぞ。近寄り難いレッテルは確実に貼れたと思うのに、肝心のいじめっ子が俺に喧嘩を売りに来ない。それどころか「おはよーカオナシ!」「カオナシ大丈夫? 授業の進み具合分かる?」と笑顔で肩を組んでくる。何だこいつら……俺にはめっちゃくっちゃ優しいじゃねえか。

こんなはずじゃなかった。改めて計画を見直す必要があるな……。