「あのなあ、おまえくらいだぞ。こんな薄暗いプレハブ校舎に来るのは。幽霊がでるってうわさ、聞いたことあるだろ」
 あきらかに迷惑だって言ってるのに、やつは今だって当然のように後ろから抱きつき、おれの顔をのぞきこんでいる。
「知ってる。それ広めたの、おれだもんな」
 立石がテヘッと茶目っ気たっぷりに笑ったので、思わずあ然とした。
「ウソだろ?」
「ウソじゃないよ、ガチ」
「なんで、そんな意味のないこと……」
「意味なくない。帆高先輩とふたりきりになりたかったから」
 おれは一瞬、絶句した。
「だってさ、みんなが来なくなったら、こうやっていちゃいちゃできるし」
 と言って、やつはニンマリした。その目に、いたずらっぽい色が混じっていた。
「ちょい待て。おまえ、帰国子女だから、こういうスキンシップするのが普通なんだって、前に言ってなかったか?」
 だからこそ、おれは過剰に思えるくらいのスキンシップに今まで耐えてきたんだ。どこかおかしいと思いながら。ところが、
「言ってたよ。けど、誰彼かまわず、やるわけないだろ。家族とか友人とか恋人とか、特別な関係のひとだけだって。当然じゃん」
 と、立石は胸を張ったのだ。
 うおう、マジか! とんでもないことを言われて、頭の中が真っ白になった。
 こういうとき、どういう反応をすればいいんだ……?  うれしがっていいのだろうか。立石の特別になれたってことだからな。いやいや、そもそも相手は男だし、立石だし、ただの後輩だし。
 けれども鼓動がおれの意思から離れ、どんどん急ぎ足になっていく。すると立石はその隙におれの手を強引にとった。