「消すの大変なのに……! どうするんだよ!」
 おれは手をゴシゴシこすり合わせた。
「消してもムダだよ。また描くから」
 立石はおれの耳もとに顔を寄せ、低い声でささやく。
「先輩はおれにつかまったんだから、もう逃げられないよ?」
 って、おれの手をしっかり握ってくる。
「っ……!」
「いっぱい大事にして、いっぱい甘やかしてあげる」
 今度は、鼻先でほっぺをスリスリしてきやがった。
 おれは、ほんとにとんでもないやつにつかまってしまったみたいだ。
「う、うっせー。バカ……!」
 けれど、不思議と嫌じゃなかった。
 むしろ、心のどこかで、この手を離さないでほしいと願ってしまっていたんだ。



END