ふいにタン、タンと何かがトタン屋根に当たる音がした。
 絵筆を走らせていたキャンバスから窓の外へと視線を動かす。校庭のグラウンドやコンクリの地面のどこ かしこも、雨粒のシミだらけだ。
 夕立ちだった。
 雨はすぐ本降りになって、おれがいるこの美術室の窓にも、ななめに降りこんできた。
「わわっ」
 あわてて開けっぱなしにしていた窓を閉めてまわった。エアコンのスイッチを入れたあとも、はやく熱い空気を追いだしたくて、窓を開けておいたのを忘れていたんだ。
 ふうー、やばかったなあ。最悪の事態を回避する事ができてよかった。やれやれと安堵し、メガネのブリッジを指で押しあげる。そのときだった。突然おれの顔の左右から、ぬっと手が突きでてきた。
「せんぱ〜い、てぇ〜だして〜」
 背後から頬と耳に「ふうー」と息がかかりドキリとしたが、手をはねのけ、ポーカーフェイスで振りかえる。
「またおまえか。何しに来たんだよ」
「何しにって。いつもつれないよなあ、帆高先輩は」
 振りかえった先に、やはりというか、そもそもコイツしかいないのだけど、1年の立石創(たていし そう)が立っていた。明るく社交的、誰とも仲良くなれるといういわゆる陽キャのくせして、おれにちょっかいばかりかけてくる小生意気なやつだ。
 対しておれ――青木帆高(あおき ほだか)は、まったく正反対。昔から地味で、どちらかと言うと人と距離を置くタイプ。美術室の隅でひとり絵を描いていられれば、特に困らない。そんな性格だから、学校生活も、可もなく不可もなく、静かに流れていく……はずだった。が、立石がおれの前にあらわれたことで変わってしまったのだ。