朝の光が、カーテンの隙間から差し込んできた。
私は、一睡もしていなかった。
ずっと、レオを抱きしめていた。
レオの呼吸が、変わっていた。
浅くて、不規則で、途切れそうになる。
「レオ......」
私は、レオの名前を呼んだ。
レオは、薄く目を開けた。
いつもの鋭い目ではなく、霞んだような目。
でも、確かに私を見ていた。
最期の時が、近づいている。
それがわかった。
私は、震える手でバッグから薬の袋を取り出した。
最後の1粒。
虹色に光る、小さなカプセル。
「レオ......」
私は、カプセルを手のひらに乗せた。
これを使えば、もう一度レオの声が聞けるかもしれない。
最後に「ありがとう」と言ってもらえるかもしれない。
でも、違う。
私が聞きたいんじゃない。
私が、伝えたい。
レオに、私の気持ちを。
言葉で、魂で、全部。
私は、コップに水を注いだ。
そして、カプセルを口に含んだ。
「え......」
レオが、驚いたように目を見開いた。
私は、薬を飲み込んだ。
冷たい水と一緒に、喉を通っていく。
「私が飲むの」
私は、レオに微笑みかけた。
「レオの言葉を聞くためじゃなくて。私の言葉を、レオに届けるために」
薬が、体の中で溶けていく。
不思議な感覚。
体が、軽くなったような気がした。
「レオ、聞こえる? 私の声」
私は、レオに語りかけた。
でも、出てきた音は、人間の言葉じゃなかった。
「ニャ......ニャア......」
猫の鳴き声。
私の口から、猫の言葉が出ている。
レオは、じっと私を見た。
そして、小さく鳴き返した。
「ん......」
か細い声。
でも、確かに応えてくれた。
「レオ、ありがとう」
私は、猫の言葉で伝えた。
「ニャア、ニャ、ニャアア」
意味がわからない。
でも、心を込めて鳴いた。
レオに、届いてほしい。
この想いが。
「レオと出会えて、幸せだった」
「ニャア、ニャアニャア、ニャ」
「レオがいてくれたから、私は生きられた」
「ニャアア、ニャ、ニャアニャア」
涙が溢れた。
言葉にならない言葉で、私は必死に伝えた。
愛してる。
大好き。
ありがとう。
一緒にいてくれて、ありがとう。
レオは、静かに私を見つめていた。
その目に、涙が浮かんでいる気がした。
猫は、泣かない。
でも、レオの目は、確かに潤んでいた。
「ニャア......」
レオが、小さく鳴いた。
その声は、いつもより優しかった。
まるで「わかってるよ」と言っているような。
私は、レオをそっと抱きしめた。
猫の言葉で、何度も何度も囁いた。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
レオの体が、私の腕の中で震えた。
そして、レオが口を開いた。
声が、聞こえた。
レオの声。
いつもの、あの毒舌の声。
薬の効果なのか。
それとも、幻聴なのか。
わからない。
でも、確かに聞こえた。
「ったく、泣き虫な飼い主だ」
レオの声が、私の心に響いた。
「いつも泣いてばっかりいやがって。見てらんねえよ」
私は、涙を流しながら笑った。
最期まで、毒舌。
それがレオだった。
「俺が悪態ついてねえと、お前すぐ泣くからな」
レオの声は、少しだけ優しくなった。
「だから、わざと悪役やってやったんだぞ。お前を笑わせるために」
そうだったんだ。
レオは、わざと毒舌を吐いていた。
私を泣かせないために。
私を笑わせるために。
「バカだろ、俺」
レオの声が、かすれた。
「でもな、後悔はしてねえ。お前の笑顔が見られたから」
涙が止まらなかった。
でも、悲しい涙じゃなかった。
温かい涙だった。
「お前と過ごした日々、悪くなかったぜ」
レオの声が、さらに優しくなった。
今まで聞いたことのない、穏やかな声。
「毎日、お前が帰ってくるのを待つのが楽しみだった」
「レオ......」
私は、猫の言葉で鳴いた。
「お前が俺の名前を呼ぶ声、好きだったな」
レオの声が、途切れそうになる。
「お前が俺を撫でる手、温かかった」
「お前の膝の上で寝るのが、一番幸せだった」
私は、レオを抱きしめた。
もっと強く。
もっと優しく。
「ありがとな」
レオの声が、ささやくように響いた。
「お前の作る飯、実は一番好きだったぜ」
「えっ......」
私は驚いた。
あんなに文句ばかり言っていたのに。
「安物だとか、マズいとか、散々言ったけどな」
レオの声が、笑っているようだった。
「全部、お前を困らせて楽しんでただけだ。本当は、どの飯も美味かった」
「レオ......」
「お前が一生懸命作ってくれたから。俺のために選んでくれたから」
レオの声が、さらに小さくなった。
「だから、全部、愛おしかった」
私は、声を上げて泣いた。
猫の声で、人間の声で、泣いた。
「美咲」
レオが、初めて私の名前を呼んだ。
「ありがとう。お前と出会えて、幸せだった」
「私も! 私も幸せだった!」
私は叫んだ。
猫の言葉で、必死に伝えた。
「ニャアア! ニャアアア!」
レオは、もう一度だけ目を開けた。
その目は、優しかった。
いつもの鋭さはなく、ただ穏やかで、愛に満ちていた。
「じゃあな、独身女」
最後まで、その呼び方。
でも、今はそれが愛おしかった。
「また、どこかで会おうぜ」
レオの声が、消えた。
レオは、静かに目を閉じた。
呼吸が、止まった。
心臓の鼓動が、止まった。
レオの体から、温もりが少しずつ失われていく。
「レオ......レオ......」
私は、レオの名前を呼び続けた。
でも、レオはもう応えなかった。
レオは、逝ってしまった。
私の腕の中で、静かに。
穏やかに。
私は、泣いた。
声を上げて、泣いた。
でも、不思議と、笑顔だった。
悲しいのに、笑っていた。
レオは、幸せだったと言ってくれた。
ありがとうと言ってくれた。
それが、嬉しかった。
レオとの別れは、悲しい。
でも、レオとの出会いは、奇跡だった。
レオと過ごした日々は、宝物だった。
「ありがとう、レオ」
私は、もう動かないレオに囁いた。
「大好きだよ」
レオの顔は、穏やかだった。
まるで、眠っているような、優しい表情。
苦しみも、痛みも、もうない。
ただ、安らかに眠っている。
朝の光が、レオの体を照らしていた。
黒い毛並みが、金色に輝いている。
私は、レオを抱きしめたまま、ずっと泣いていた。
涙が止まらなかった。
でも、心は温かかった。
レオの愛を受け取ったから。
レオの想いを知ったから。
「さようなら、レオ」
私は、最後にもう一度囁いた。
「また、会おうね」
私は、一睡もしていなかった。
ずっと、レオを抱きしめていた。
レオの呼吸が、変わっていた。
浅くて、不規則で、途切れそうになる。
「レオ......」
私は、レオの名前を呼んだ。
レオは、薄く目を開けた。
いつもの鋭い目ではなく、霞んだような目。
でも、確かに私を見ていた。
最期の時が、近づいている。
それがわかった。
私は、震える手でバッグから薬の袋を取り出した。
最後の1粒。
虹色に光る、小さなカプセル。
「レオ......」
私は、カプセルを手のひらに乗せた。
これを使えば、もう一度レオの声が聞けるかもしれない。
最後に「ありがとう」と言ってもらえるかもしれない。
でも、違う。
私が聞きたいんじゃない。
私が、伝えたい。
レオに、私の気持ちを。
言葉で、魂で、全部。
私は、コップに水を注いだ。
そして、カプセルを口に含んだ。
「え......」
レオが、驚いたように目を見開いた。
私は、薬を飲み込んだ。
冷たい水と一緒に、喉を通っていく。
「私が飲むの」
私は、レオに微笑みかけた。
「レオの言葉を聞くためじゃなくて。私の言葉を、レオに届けるために」
薬が、体の中で溶けていく。
不思議な感覚。
体が、軽くなったような気がした。
「レオ、聞こえる? 私の声」
私は、レオに語りかけた。
でも、出てきた音は、人間の言葉じゃなかった。
「ニャ......ニャア......」
猫の鳴き声。
私の口から、猫の言葉が出ている。
レオは、じっと私を見た。
そして、小さく鳴き返した。
「ん......」
か細い声。
でも、確かに応えてくれた。
「レオ、ありがとう」
私は、猫の言葉で伝えた。
「ニャア、ニャ、ニャアア」
意味がわからない。
でも、心を込めて鳴いた。
レオに、届いてほしい。
この想いが。
「レオと出会えて、幸せだった」
「ニャア、ニャアニャア、ニャ」
「レオがいてくれたから、私は生きられた」
「ニャアア、ニャ、ニャアニャア」
涙が溢れた。
言葉にならない言葉で、私は必死に伝えた。
愛してる。
大好き。
ありがとう。
一緒にいてくれて、ありがとう。
レオは、静かに私を見つめていた。
その目に、涙が浮かんでいる気がした。
猫は、泣かない。
でも、レオの目は、確かに潤んでいた。
「ニャア......」
レオが、小さく鳴いた。
その声は、いつもより優しかった。
まるで「わかってるよ」と言っているような。
私は、レオをそっと抱きしめた。
猫の言葉で、何度も何度も囁いた。
愛してる。
愛してる。
愛してる。
レオの体が、私の腕の中で震えた。
そして、レオが口を開いた。
声が、聞こえた。
レオの声。
いつもの、あの毒舌の声。
薬の効果なのか。
それとも、幻聴なのか。
わからない。
でも、確かに聞こえた。
「ったく、泣き虫な飼い主だ」
レオの声が、私の心に響いた。
「いつも泣いてばっかりいやがって。見てらんねえよ」
私は、涙を流しながら笑った。
最期まで、毒舌。
それがレオだった。
「俺が悪態ついてねえと、お前すぐ泣くからな」
レオの声は、少しだけ優しくなった。
「だから、わざと悪役やってやったんだぞ。お前を笑わせるために」
そうだったんだ。
レオは、わざと毒舌を吐いていた。
私を泣かせないために。
私を笑わせるために。
「バカだろ、俺」
レオの声が、かすれた。
「でもな、後悔はしてねえ。お前の笑顔が見られたから」
涙が止まらなかった。
でも、悲しい涙じゃなかった。
温かい涙だった。
「お前と過ごした日々、悪くなかったぜ」
レオの声が、さらに優しくなった。
今まで聞いたことのない、穏やかな声。
「毎日、お前が帰ってくるのを待つのが楽しみだった」
「レオ......」
私は、猫の言葉で鳴いた。
「お前が俺の名前を呼ぶ声、好きだったな」
レオの声が、途切れそうになる。
「お前が俺を撫でる手、温かかった」
「お前の膝の上で寝るのが、一番幸せだった」
私は、レオを抱きしめた。
もっと強く。
もっと優しく。
「ありがとな」
レオの声が、ささやくように響いた。
「お前の作る飯、実は一番好きだったぜ」
「えっ......」
私は驚いた。
あんなに文句ばかり言っていたのに。
「安物だとか、マズいとか、散々言ったけどな」
レオの声が、笑っているようだった。
「全部、お前を困らせて楽しんでただけだ。本当は、どの飯も美味かった」
「レオ......」
「お前が一生懸命作ってくれたから。俺のために選んでくれたから」
レオの声が、さらに小さくなった。
「だから、全部、愛おしかった」
私は、声を上げて泣いた。
猫の声で、人間の声で、泣いた。
「美咲」
レオが、初めて私の名前を呼んだ。
「ありがとう。お前と出会えて、幸せだった」
「私も! 私も幸せだった!」
私は叫んだ。
猫の言葉で、必死に伝えた。
「ニャアア! ニャアアア!」
レオは、もう一度だけ目を開けた。
その目は、優しかった。
いつもの鋭さはなく、ただ穏やかで、愛に満ちていた。
「じゃあな、独身女」
最後まで、その呼び方。
でも、今はそれが愛おしかった。
「また、どこかで会おうぜ」
レオの声が、消えた。
レオは、静かに目を閉じた。
呼吸が、止まった。
心臓の鼓動が、止まった。
レオの体から、温もりが少しずつ失われていく。
「レオ......レオ......」
私は、レオの名前を呼び続けた。
でも、レオはもう応えなかった。
レオは、逝ってしまった。
私の腕の中で、静かに。
穏やかに。
私は、泣いた。
声を上げて、泣いた。
でも、不思議と、笑顔だった。
悲しいのに、笑っていた。
レオは、幸せだったと言ってくれた。
ありがとうと言ってくれた。
それが、嬉しかった。
レオとの別れは、悲しい。
でも、レオとの出会いは、奇跡だった。
レオと過ごした日々は、宝物だった。
「ありがとう、レオ」
私は、もう動かないレオに囁いた。
「大好きだよ」
レオの顔は、穏やかだった。
まるで、眠っているような、優しい表情。
苦しみも、痛みも、もうない。
ただ、安らかに眠っている。
朝の光が、レオの体を照らしていた。
黒い毛並みが、金色に輝いている。
私は、レオを抱きしめたまま、ずっと泣いていた。
涙が止まらなかった。
でも、心は温かかった。
レオの愛を受け取ったから。
レオの想いを知ったから。
「さようなら、レオ」
私は、最後にもう一度囁いた。
「また、会おうね」

