◇
・午後。晴れ。
・高級ホテルの大ホール。
着飾った紳士淑女がいっぱい。
特に華やかな振り袖や気合の入ったドレス姿の年頃の娘が多い。
制服姿の眞琴は壁の花。一人でシャンパングラスに入ったジンジャーエールを飲んでいる。
遠くからヒソヒソと「あれが悪魔の子」などと声が聞こえる。
眞琴N
『今日は白道財閥の創立記念パーティー』
『参加者は政界財界の関係者はもちろん、陰陽師関係も多い』
眞琴N
『でも、本当の目的は、跡取りである白道さんのお見合いらしい』
『なので真夜家の分家筋の私も、半強制的に招待されていた』
一際派手な振り袖で目立っている香子が、取り巻きと一緒に眞琴の近くに来て嘲笑する。
香子
「見て、あれ?」
「ちょーだっさーい」
取り巻き1
「パーティーなのに制服ぅ〜?」
「貧乏くさっ」
取り巻き2
「常識も知らないのね。育ちが悪いから」
眞琴が無視をしていると、香子は彼女の眼前まで寄って来る。
香子
「ここはあんたみたいな汚らわしい女の来る場所じゃないの」
「さっさと帰りなさいよ」
眞琴
「……」
香子
「出口が分からなかったら、わたしが案内差し上げましょうか?」
眞琴は香子の向こう側を指差す。
眞琴
「ねぇ、行かなくていいの?」
香子
「は?」
眞琴
「白道さん、囲まれてるわよ」
香子は勢いよく振り返る。
香子
「なんですって!?」
絃(※羽織袴姿)の周囲に若い娘たちが群がっている。
香子
「チッ! 出遅れたわ!」
「行くわよ!」
香子たちは「絃様〜♡」と集団の中に入っていく。
眞琴M
「やれやれ」
眞琴はぼうっと絃の様子を見ている。
眞琴M
「こうして見てると、本当に別世界の人よね…」
「たしかに、顔だけはいいな。面食いの英里奈が騒ぐわけだ」
眞琴と絃の視線がバチリと合う。
眞琴&絃
「!」
たちまち絃は嬉しそうな顔になり、眞琴に向かって大きく手を振る。
絃
「眞琴〜!」
眞琴M
「げっ!」
「気付かれた!」
絃は女性たちを振り切って眞琴のもとへやって来る。
絃
「ちゃんと来てくれたんだな。ありがとう」
眞琴
「強制的に呼び出したくせに」
絃は眞琴の制服姿を見て眉をひそめる。
絃
「おい…なんでこういう時まで制服なんだ?」
「眞琴の振袖姿、楽しみにしていたのに」
眞琴はドキリと顔を赤くするが、すぐに平静を取り戻す。
眞琴
「外出着は制服(ルビ:これ)しか持っていないので」
絃は目を見開いて驚愕する。
絃
「はぁっ!?」
「マジかよ…」
絃は少し考える素振りを見せてから、眞琴の手首を優しく掴む。
絃
「よし、今から買いに行こう」
眞琴
「へ?」
絃
「今から眞琴の服を買いに行くぞ」
「ついでに必要なものがあれば、これを機に揃えるか」
眞琴
「えぇっ!?」
絃は眞琴を引っ張るが、彼女は頑張ってその場に踏ん張る。
眞琴
「ちょっと待ってください!」
「今日は大事なパーティーなんじゃないの?」
絃
「あぁ。挨拶回りは済んだから、もう抜け出しても大丈夫だ」
眞琴
「そうじゃなくて!」
「お見合いでもあるんでしょう?」
絃
「母上が勝手に言っているだけだから、気にすんな」
絃は眞琴を強引に外に連れ出す。
◇
・老舗呉服店のVIPルームの更衣室。
肌襦袢を着て、鏡の前に立っている眞琴。数名のスタッフによって着せ替え人形状態。
女将
「あら〜、これも似合うわね。あれも似合いそう。持って来て?」
眞琴M
「まだ着替えるの!?」
女将
「眞琴様はモデルさんみたいだから、何でも似合って迷っちゃうわ〜」
店員
「ですよねー!」
ソファーで緑茶を飲んで寛いでいる絃の前に、更衣室から出た振り袖姿の眞琴がやって来る。
女将
「絃様、いかがですか?」
「とても美しいでしょう?」
絃は眞琴の姿を見て、一瞬だけ身体を硬直させて目を見張る。
そしてすぐに破顔する。
絃
「よく似合ってるじゃないか!」
女将
「そうでしょう〜」
絃は眞琴の前に立って嬉しそうに言う。
絃
「凄く綺麗だ」
眞琴は思わず照れて頬を赤くする。
眞琴
「そ、そう…?」
絃
「あぁ!」
「女将、これを一式くれ。あと、他にも似合いそうなものがあれば、全部頼む」
女将
「承知いたしました、絃様」
眞琴は慌てて絃を咎める。
眞琴
「そ、そんなに必要ないわ。お金持ってないし」
絃
「今日は俺からのプレゼントだ」
「眞琴は美人なんだから、もっと着飾ったほうがいい」
眞琴の顔がさっきより赤くなる。
眞琴
「なっ…!?」
眞琴は恥ずかしそうに顔を背け、狼狽えながら言う。
眞琴
「せ…正式に祓魔師(ルビ:エクソシスト)になったら、稼いで代金を返しますから…!」
絃
「金は要らん」
「あと、陰陽師、な」
眞琴
「どちらを選択しても構わないって言ったじゃないですか」
絃はすっとぼけたように首を傾げる。
絃
「あー? 俺そんなこと言ったっけ〜?」
眞琴
「もうっ!」
二人は呉服屋を出る。(※眞琴は振り袖姿のまま)
女将たちが「ありがとうございました」と一斉に頭を下げている。
眞琴
「あぁ、疲れた…」
「着物を着るのって大変なんですね」
絃
「慣れれば苦じゃないさ」
「じゃあ、次は茶でも飲むか」
◇
・ホテルのレストランの個室。
・白いテーブルクロスのかかった丸テーブルに、眞琴と絃が向かい合って座っている。
眞琴は紅茶とフルーツタルト、絃はコーヒーを飲んでいる。
眞琴
「美味しい…!」
絃
「ここのタルトは有名だからな」
「口に合って良かった」
眞琴はチラリと上目遣いで絃を見る。
眞琴
「…なんで、こんなに良くしてくれるんですか?」
絃
「前も言っただろう?」
「進次郎殿には昔世話になったんだ」
絃は少し遠い目をして語りだす。
絃
「昔の俺は、霊力を上手く操作できない時期があってな」
「その時に進次郎殿に鍛えてもらったんだ」
眞琴
「それだけ?」
絃
「眞琴も霊力のコントロールは大事だって分かるだろう?」
眞琴
「そうだけど…」
絃
「進次郎殿が事故で亡くなったって聞いた時は動揺したよ」
「分家の次男だが、真夜家門で一番の実力の持ち主と言われていたしな」
眞琴
「そうですか」
絃は悔しそうに拳を握り、ぎりりと歯を食いしばる。
絃
「彼の娘が夜見家に引き取られたと聞いて安心したが」
「まさかあんな仕打ちを受けていたとはな…」
眞琴は彼とは対象的に冷静な態度。
眞琴
「長い歴史を持つ陰陽師に、異国の血は受け入れがたいのでしょう」
絃
「だが、人としてやってはいけないことがある」
「それに眞琴は、一人の人格を持った人間だ。尊重されるべきなんだ」
「血なんて関係ない」
眞琴は驚きと嬉しさの混じったような顔になって、ソワソワと落ち着かなくなる。
眞琴
「あ…ありがとう…ございます…」
眞琴M
「強引に連れ出されたけど」
「白道さんとの時間は、とても楽しかった」
眞琴M
「こんなひとときを過ごせるのなら、また付き合ってもいいかも…?」
◇
・パーティー会場に戻る。
絃が眞琴と出て行ったので、年頃の女性たちが騒然としている。
令嬢1
「なんなの、あの女は!」
令嬢2
「あれでしょう? 異国の血の混じった雑種女」
女性たちが眞琴の悪口で盛り上がっている。
取り巻き1
「許せないわ、あのビッチ!」
取り巻き2
「ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」
少し考える素振りをしていた香子が、なにかをひらめいたようにニッと口に弧を描く。
香子
「わたしに、いい考えあるわ」
取り巻き1
「なに、なに?」
香子
「再来週は野外演習があるでしょう?」
「そこでね…」
香子が取り巻きたちの耳元でゴニョゴニョと囁く。
取り巻きたちの顔がパッと晴れる。
香子
「見てなさい?」
「わたしがあの女を懲らしめてあげる♪」
・午後。晴れ。
・高級ホテルの大ホール。
着飾った紳士淑女がいっぱい。
特に華やかな振り袖や気合の入ったドレス姿の年頃の娘が多い。
制服姿の眞琴は壁の花。一人でシャンパングラスに入ったジンジャーエールを飲んでいる。
遠くからヒソヒソと「あれが悪魔の子」などと声が聞こえる。
眞琴N
『今日は白道財閥の創立記念パーティー』
『参加者は政界財界の関係者はもちろん、陰陽師関係も多い』
眞琴N
『でも、本当の目的は、跡取りである白道さんのお見合いらしい』
『なので真夜家の分家筋の私も、半強制的に招待されていた』
一際派手な振り袖で目立っている香子が、取り巻きと一緒に眞琴の近くに来て嘲笑する。
香子
「見て、あれ?」
「ちょーだっさーい」
取り巻き1
「パーティーなのに制服ぅ〜?」
「貧乏くさっ」
取り巻き2
「常識も知らないのね。育ちが悪いから」
眞琴が無視をしていると、香子は彼女の眼前まで寄って来る。
香子
「ここはあんたみたいな汚らわしい女の来る場所じゃないの」
「さっさと帰りなさいよ」
眞琴
「……」
香子
「出口が分からなかったら、わたしが案内差し上げましょうか?」
眞琴は香子の向こう側を指差す。
眞琴
「ねぇ、行かなくていいの?」
香子
「は?」
眞琴
「白道さん、囲まれてるわよ」
香子は勢いよく振り返る。
香子
「なんですって!?」
絃(※羽織袴姿)の周囲に若い娘たちが群がっている。
香子
「チッ! 出遅れたわ!」
「行くわよ!」
香子たちは「絃様〜♡」と集団の中に入っていく。
眞琴M
「やれやれ」
眞琴はぼうっと絃の様子を見ている。
眞琴M
「こうして見てると、本当に別世界の人よね…」
「たしかに、顔だけはいいな。面食いの英里奈が騒ぐわけだ」
眞琴と絃の視線がバチリと合う。
眞琴&絃
「!」
たちまち絃は嬉しそうな顔になり、眞琴に向かって大きく手を振る。
絃
「眞琴〜!」
眞琴M
「げっ!」
「気付かれた!」
絃は女性たちを振り切って眞琴のもとへやって来る。
絃
「ちゃんと来てくれたんだな。ありがとう」
眞琴
「強制的に呼び出したくせに」
絃は眞琴の制服姿を見て眉をひそめる。
絃
「おい…なんでこういう時まで制服なんだ?」
「眞琴の振袖姿、楽しみにしていたのに」
眞琴はドキリと顔を赤くするが、すぐに平静を取り戻す。
眞琴
「外出着は制服(ルビ:これ)しか持っていないので」
絃は目を見開いて驚愕する。
絃
「はぁっ!?」
「マジかよ…」
絃は少し考える素振りを見せてから、眞琴の手首を優しく掴む。
絃
「よし、今から買いに行こう」
眞琴
「へ?」
絃
「今から眞琴の服を買いに行くぞ」
「ついでに必要なものがあれば、これを機に揃えるか」
眞琴
「えぇっ!?」
絃は眞琴を引っ張るが、彼女は頑張ってその場に踏ん張る。
眞琴
「ちょっと待ってください!」
「今日は大事なパーティーなんじゃないの?」
絃
「あぁ。挨拶回りは済んだから、もう抜け出しても大丈夫だ」
眞琴
「そうじゃなくて!」
「お見合いでもあるんでしょう?」
絃
「母上が勝手に言っているだけだから、気にすんな」
絃は眞琴を強引に外に連れ出す。
◇
・老舗呉服店のVIPルームの更衣室。
肌襦袢を着て、鏡の前に立っている眞琴。数名のスタッフによって着せ替え人形状態。
女将
「あら〜、これも似合うわね。あれも似合いそう。持って来て?」
眞琴M
「まだ着替えるの!?」
女将
「眞琴様はモデルさんみたいだから、何でも似合って迷っちゃうわ〜」
店員
「ですよねー!」
ソファーで緑茶を飲んで寛いでいる絃の前に、更衣室から出た振り袖姿の眞琴がやって来る。
女将
「絃様、いかがですか?」
「とても美しいでしょう?」
絃は眞琴の姿を見て、一瞬だけ身体を硬直させて目を見張る。
そしてすぐに破顔する。
絃
「よく似合ってるじゃないか!」
女将
「そうでしょう〜」
絃は眞琴の前に立って嬉しそうに言う。
絃
「凄く綺麗だ」
眞琴は思わず照れて頬を赤くする。
眞琴
「そ、そう…?」
絃
「あぁ!」
「女将、これを一式くれ。あと、他にも似合いそうなものがあれば、全部頼む」
女将
「承知いたしました、絃様」
眞琴は慌てて絃を咎める。
眞琴
「そ、そんなに必要ないわ。お金持ってないし」
絃
「今日は俺からのプレゼントだ」
「眞琴は美人なんだから、もっと着飾ったほうがいい」
眞琴の顔がさっきより赤くなる。
眞琴
「なっ…!?」
眞琴は恥ずかしそうに顔を背け、狼狽えながら言う。
眞琴
「せ…正式に祓魔師(ルビ:エクソシスト)になったら、稼いで代金を返しますから…!」
絃
「金は要らん」
「あと、陰陽師、な」
眞琴
「どちらを選択しても構わないって言ったじゃないですか」
絃はすっとぼけたように首を傾げる。
絃
「あー? 俺そんなこと言ったっけ〜?」
眞琴
「もうっ!」
二人は呉服屋を出る。(※眞琴は振り袖姿のまま)
女将たちが「ありがとうございました」と一斉に頭を下げている。
眞琴
「あぁ、疲れた…」
「着物を着るのって大変なんですね」
絃
「慣れれば苦じゃないさ」
「じゃあ、次は茶でも飲むか」
◇
・ホテルのレストランの個室。
・白いテーブルクロスのかかった丸テーブルに、眞琴と絃が向かい合って座っている。
眞琴は紅茶とフルーツタルト、絃はコーヒーを飲んでいる。
眞琴
「美味しい…!」
絃
「ここのタルトは有名だからな」
「口に合って良かった」
眞琴はチラリと上目遣いで絃を見る。
眞琴
「…なんで、こんなに良くしてくれるんですか?」
絃
「前も言っただろう?」
「進次郎殿には昔世話になったんだ」
絃は少し遠い目をして語りだす。
絃
「昔の俺は、霊力を上手く操作できない時期があってな」
「その時に進次郎殿に鍛えてもらったんだ」
眞琴
「それだけ?」
絃
「眞琴も霊力のコントロールは大事だって分かるだろう?」
眞琴
「そうだけど…」
絃
「進次郎殿が事故で亡くなったって聞いた時は動揺したよ」
「分家の次男だが、真夜家門で一番の実力の持ち主と言われていたしな」
眞琴
「そうですか」
絃は悔しそうに拳を握り、ぎりりと歯を食いしばる。
絃
「彼の娘が夜見家に引き取られたと聞いて安心したが」
「まさかあんな仕打ちを受けていたとはな…」
眞琴は彼とは対象的に冷静な態度。
眞琴
「長い歴史を持つ陰陽師に、異国の血は受け入れがたいのでしょう」
絃
「だが、人としてやってはいけないことがある」
「それに眞琴は、一人の人格を持った人間だ。尊重されるべきなんだ」
「血なんて関係ない」
眞琴は驚きと嬉しさの混じったような顔になって、ソワソワと落ち着かなくなる。
眞琴
「あ…ありがとう…ございます…」
眞琴M
「強引に連れ出されたけど」
「白道さんとの時間は、とても楽しかった」
眞琴M
「こんなひとときを過ごせるのなら、また付き合ってもいいかも…?」
◇
・パーティー会場に戻る。
絃が眞琴と出て行ったので、年頃の女性たちが騒然としている。
令嬢1
「なんなの、あの女は!」
令嬢2
「あれでしょう? 異国の血の混じった雑種女」
女性たちが眞琴の悪口で盛り上がっている。
取り巻き1
「許せないわ、あのビッチ!」
取り巻き2
「ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」
少し考える素振りをしていた香子が、なにかをひらめいたようにニッと口に弧を描く。
香子
「わたしに、いい考えあるわ」
取り巻き1
「なに、なに?」
香子
「再来週は野外演習があるでしょう?」
「そこでね…」
香子が取り巻きたちの耳元でゴニョゴニョと囁く。
取り巻きたちの顔がパッと晴れる。
香子
「見てなさい?」
「わたしがあの女を懲らしめてあげる♪」

