春のような人だった。
厳しい季節の中で、ただひとつ、私に季節を思い出させてくれた。
暖かく、穏やかで、優しくて、――そして儚い。
あの日、あの桜の下で見た貴方の頬笑みを
きっと、私は生涯忘れないだろう。
「っ、」
ひとりにしないで。
喉までこみ上げていたその声を、私は飲み込むことしかできなかった。
手を伸ばせば届きそうな距離にあるのに
追いかける事も出来ず、貴方の背中はもう遠い。
ただ、その後ろ姿を私は見送ることしかできなかった。
1944年。
日本が敗戦を迎える前年に
――私はタイムスリップした。
