私立暦乃学園高等部のBL事情。

 生徒指導室に入る。
 今日使用する指導室は、いつも四万十川が我が物顔で使用している個室とは別の、特殊な部屋だ。
 二部屋構造になっており、マジックミラーで裏の部屋から表の部屋の様子がうかがえる。

「四万十川先生、お疲れ様です」
「おぉ~、来たか。ご要望通り、呼び出してやったぞ」

 いつもの緩い感じで、四万十川が欠伸を噛み殺した。
 生徒指導についている割に、やる気がない先生だ。

「予定通り、生徒会の処分でよろしいですか?」

 千野の問いに、四万十川が煮え切らない顔をした。

「話を聞いてからだけどなぁ。でもまぁ、生徒会処分が妥当だろ。大事にし過ぎると、篠崎が退学になっちゃうし。それだと深山も困るだろうしなぁ」
「困るって、報復的な?」

 大変怖い話だと思う。
 高校生の子供同士の話で済んでいればいいが、親が絡むと厄介だ。

「深山の親が知ったら、放置しないだろ。篠崎、家ごと潰されちゃうよ」
「へ? 困るって、篠崎さんが困るんですか?」

 よくわからなくて、首を傾げる。
 てっきり篠崎が親の力を使って深山に報復するのだと思ってた。

「篠崎燃料って有名な資産家だけどさ。深山の父親は、ニーエンスの専務で、社長に次ぐ権限持ってるらしいから」
「ニーエンスって、金持ち企業ランキングに毎年、入ってる会社ですよね?」

 恐る恐る問う。
 千野と四万十が、普通に頷いた。

「千野財閥とも、お付き合いがあるんだよ。子供の頃は深山君ともパーティで顔を合わせてた」
「パーティ? 千野先輩は深山と友達、だったんですか?」
「中学に上がって以降は、ろくに話もしていないから、友達と呼べるかわからないけど。知らない仲ではないね」
「はぁ……」

 何となく、千野が今回の件に張り切っている理由がわかった。
 
「個人資産が篠崎燃料を超えてるような家だから。喧嘩売ったのは、失敗だったよな」

 四万十川が面倒そうに息を吐いた。

「全然、知らなかった」

 深山と特に仲がいいわけではないから、当然かもしれないが。
 そういう話は本人の意に反して、大きく広がるものだ。

「深山んちは社長って訳じゃないし、会社役員程度じゃ、この学園では目立たないだろうなぁ」
「本人も、親の仕事をひけらかすような性格じゃないしね」

 四万十川と千野の説明は、納得だ。
 だからこそ、余計に怖い。

「そういうわけで、妥当なラインで手を打つのが双方のためかな、と考えているんだ」
「そうですか」

 子供同士の諍いに親の仕事が絡んでくるのも、この学園ならではだと思う。

「それにしても遅いね。来ないつもりかな」

 千野が扉を眺める。
 その目が怖い。

(すっぽかすなんて、絶対やめて。千野先輩が怒ったら、本気で家ごと潰されちゃうよ!)

 百瀬は心の中で、篠崎に叫んだ。

「生徒指導の教師の呼び出しスルーとか、先生が悲しくなるから、やめてほしいな」

 四万十川が、ちょっと本気で悲しそうだ。
 正直、生徒指導より千野が怖いと百瀬は思うから、掛ける言葉が見付からない。