「おはようございます」
「おはよう、百瀬。今日も僕の勝ちだね」
扉を開けると、部屋の中に既に生徒会長の千野がいた。
「早く来たほうが勝ちなんて勝負、してませんよ。それより……」
千野と話していたのは、今まさに噂の渦中にいる高野だった。
真っ青な顔が百瀬を振り返った。
「百瀬、おはよう。朝からお邪魔しています」
高野が申し訳なさそうに目を逸らした。
「構わないよ。クラスメイトなんだし、もっと気楽にしてくれていいのに」
「うん、ありがと……」
表情から察するに、だいぶ参っている様子だ。
教室にいる時は、そんな顔を見せたことなど一度もないのに。
(深山の手前、気丈に振舞っているのか。もう三日も休んでいるもんな)
噂が大きくなって本人の耳にも入ったのだろう。
あの気弱な深山が耐えられるボリュームでないのは、傍から見ていても理解できる。
「例の噂については生徒会も把握している。勿論、百瀬も知っているから、話を続けていいかな」
「そうですよね。お願いします、千野先輩」
千野の言葉に高野が気まずそうに百瀬から目を逸らした。
「お邪魔なようでしたら、席を外しますよ」
立ち上がりかけた百瀬を高野が目で制した。
「いいや、いてくれ。百瀬は副会長で、生徒会長の僕の補佐だろ」
「そうですけど」
高野をちらりと窺いながら、仕方なく腰を下ろす。
「俺は大丈夫。千野先輩に相談していたんだ。どうしたらいいか、わからなくなっちゃって」
「皆が飽きるのを待つしかないんじゃないの? 意図して噂を消すって、不可能だと思うけど」
どれだけ権力や暴力で規制を掛けようと、人の口に戸は立てられない。
むしろ縛りが強くなるほど、人は面白がってその話題に食いつく。
「それもだけど、今は、深山が心配で。学校を休んでるし、メッセも既読つかないし、家に行っても会ってもらえなくて」
「あぁ、そういう」
完全に自分の殻に引きこもったらしい。
「今の状況は深山君には辛いだろうね。高野君とも連絡が付かないのは、心配だね」
千野が心配そうに目を伏す。
こんな時に恐縮だが、イケメンの憂い顔は尊いので、目に焼き付ける。
(千野先輩は眉目秀麗、色彩兼備、学校中が憧れる完璧イケメン。間違いなくナンバーワンの王子様だからな)
高野と並ぶと絵になるなと、ツーショも目に焼き付けておいた。
「俺が軽率に屋上でキスなんか、したから。深山は嫌がっていたのに」
「嫌がってたの?」
後悔の滲む顔に照れが混じった。
「学校でイチャつくのは、リスクが高いって。誰かに観られたら、怖いって」
「確かにリスクは高いね。ちなみに二人は、お付き合いをしていたんだよね」
千野の問いかけに、高野が完全に照れた。
「ちゃんと恋人になってほしいって、伝えたから。一方的ではないと、思ってます」
高野の顔が真っ赤だ。
(可愛いー。高野のこんな顔、初めて見た。恋してるって感じだ)
完全腐男子視線になっている百瀬を、茅野が笑顔で見詰める。
そのスイッチ切れのサインだと思った。
気を取り直して、百瀬は表情を改めた。
「しばらく様子を見てもいいかもしれないよ。深山君の気持ちも大事にしないとね」
「連絡、しないほうがいいんでしょうか」
「連絡はしてもいいと思うけど。会いに行くのはまだ、負担かもね」
高野が悔しそうに拳を握り締めた。
「傷付けたいわけじゃないのに。二人でいたいだけなのに。どうして、放っておいてくれないんだろう」
痛々しい表情が辛くて、直視できない。
好きな人の隣で、ただ幸せを感じていただけなのに。
関係ない人間に邪魔されるのは、腹立たしいし辛いだろう。
「大丈夫、きっと今だけだ。すぐに、いつも通りの学校生活が送れるようになるよ」
千野が高野の肩を摩って慰める。
「僕も最善を尽くすよ。何かあれば、また相談においで。HRが始まる時間だ。教室に戻るといい」
「ありがとうございます」
頷いて、高野が立ち上がった。
「じゃぁ、失礼します。百瀬、また教室で」
「うん、俺もすぐに行くよ」
高野が生徒会室から出て行った。
「世の中の人間は他人に興味を向けすぎるよね。自分に関係ない他人のプライベートを暴きたがるって、どういう心理だろう。僕には理解できないな」
千野が何の感慨もなく話す。
まぁ、理解できないだろう、と百瀬は思う。
生徒会長の千野祐真は成績、スポーツのみならず、人間としても出来上がり過ぎていて、逆に噂にすらならない。
本当に高校生なのかと、疑う。
「この手の噂は、面白おかしく伝わるからね。消えるのを待つしかないけど、深山君には早めに登校して欲しいよね。深山君が学校に来た時点で再燃するだろうから」
「そっか。不登校が長引くほど、噂も尾を引くって感じなんだ」
百瀬は、ぽつりと呟いた。
既に三日休んでいる深山が登校してきた時点で、皆が噂を思い出す。
そこからの炎上は免れない。
「そういうこと。深山君が安心して登校できる環境を、作らなきゃね」
千野の発言に、嫌な予感がした。
「もしかして、もう動いてます?」
「有栖と慧が噂の出所を探ってくれてるよ。報告があるはずだから、昼休みは生徒会室に集合ね」
「あー、はい」
何となく嫌な予感を覚えながら、百瀬は教室に向かった。
「おはよう、百瀬。今日も僕の勝ちだね」
扉を開けると、部屋の中に既に生徒会長の千野がいた。
「早く来たほうが勝ちなんて勝負、してませんよ。それより……」
千野と話していたのは、今まさに噂の渦中にいる高野だった。
真っ青な顔が百瀬を振り返った。
「百瀬、おはよう。朝からお邪魔しています」
高野が申し訳なさそうに目を逸らした。
「構わないよ。クラスメイトなんだし、もっと気楽にしてくれていいのに」
「うん、ありがと……」
表情から察するに、だいぶ参っている様子だ。
教室にいる時は、そんな顔を見せたことなど一度もないのに。
(深山の手前、気丈に振舞っているのか。もう三日も休んでいるもんな)
噂が大きくなって本人の耳にも入ったのだろう。
あの気弱な深山が耐えられるボリュームでないのは、傍から見ていても理解できる。
「例の噂については生徒会も把握している。勿論、百瀬も知っているから、話を続けていいかな」
「そうですよね。お願いします、千野先輩」
千野の言葉に高野が気まずそうに百瀬から目を逸らした。
「お邪魔なようでしたら、席を外しますよ」
立ち上がりかけた百瀬を高野が目で制した。
「いいや、いてくれ。百瀬は副会長で、生徒会長の僕の補佐だろ」
「そうですけど」
高野をちらりと窺いながら、仕方なく腰を下ろす。
「俺は大丈夫。千野先輩に相談していたんだ。どうしたらいいか、わからなくなっちゃって」
「皆が飽きるのを待つしかないんじゃないの? 意図して噂を消すって、不可能だと思うけど」
どれだけ権力や暴力で規制を掛けようと、人の口に戸は立てられない。
むしろ縛りが強くなるほど、人は面白がってその話題に食いつく。
「それもだけど、今は、深山が心配で。学校を休んでるし、メッセも既読つかないし、家に行っても会ってもらえなくて」
「あぁ、そういう」
完全に自分の殻に引きこもったらしい。
「今の状況は深山君には辛いだろうね。高野君とも連絡が付かないのは、心配だね」
千野が心配そうに目を伏す。
こんな時に恐縮だが、イケメンの憂い顔は尊いので、目に焼き付ける。
(千野先輩は眉目秀麗、色彩兼備、学校中が憧れる完璧イケメン。間違いなくナンバーワンの王子様だからな)
高野と並ぶと絵になるなと、ツーショも目に焼き付けておいた。
「俺が軽率に屋上でキスなんか、したから。深山は嫌がっていたのに」
「嫌がってたの?」
後悔の滲む顔に照れが混じった。
「学校でイチャつくのは、リスクが高いって。誰かに観られたら、怖いって」
「確かにリスクは高いね。ちなみに二人は、お付き合いをしていたんだよね」
千野の問いかけに、高野が完全に照れた。
「ちゃんと恋人になってほしいって、伝えたから。一方的ではないと、思ってます」
高野の顔が真っ赤だ。
(可愛いー。高野のこんな顔、初めて見た。恋してるって感じだ)
完全腐男子視線になっている百瀬を、茅野が笑顔で見詰める。
そのスイッチ切れのサインだと思った。
気を取り直して、百瀬は表情を改めた。
「しばらく様子を見てもいいかもしれないよ。深山君の気持ちも大事にしないとね」
「連絡、しないほうがいいんでしょうか」
「連絡はしてもいいと思うけど。会いに行くのはまだ、負担かもね」
高野が悔しそうに拳を握り締めた。
「傷付けたいわけじゃないのに。二人でいたいだけなのに。どうして、放っておいてくれないんだろう」
痛々しい表情が辛くて、直視できない。
好きな人の隣で、ただ幸せを感じていただけなのに。
関係ない人間に邪魔されるのは、腹立たしいし辛いだろう。
「大丈夫、きっと今だけだ。すぐに、いつも通りの学校生活が送れるようになるよ」
千野が高野の肩を摩って慰める。
「僕も最善を尽くすよ。何かあれば、また相談においで。HRが始まる時間だ。教室に戻るといい」
「ありがとうございます」
頷いて、高野が立ち上がった。
「じゃぁ、失礼します。百瀬、また教室で」
「うん、俺もすぐに行くよ」
高野が生徒会室から出て行った。
「世の中の人間は他人に興味を向けすぎるよね。自分に関係ない他人のプライベートを暴きたがるって、どういう心理だろう。僕には理解できないな」
千野が何の感慨もなく話す。
まぁ、理解できないだろう、と百瀬は思う。
生徒会長の千野祐真は成績、スポーツのみならず、人間としても出来上がり過ぎていて、逆に噂にすらならない。
本当に高校生なのかと、疑う。
「この手の噂は、面白おかしく伝わるからね。消えるのを待つしかないけど、深山君には早めに登校して欲しいよね。深山君が学校に来た時点で再燃するだろうから」
「そっか。不登校が長引くほど、噂も尾を引くって感じなんだ」
百瀬は、ぽつりと呟いた。
既に三日休んでいる深山が登校してきた時点で、皆が噂を思い出す。
そこからの炎上は免れない。
「そういうこと。深山君が安心して登校できる環境を、作らなきゃね」
千野の発言に、嫌な予感がした。
「もしかして、もう動いてます?」
「有栖と慧が噂の出所を探ってくれてるよ。報告があるはずだから、昼休みは生徒会室に集合ね」
「あー、はい」
何となく嫌な予感を覚えながら、百瀬は教室に向かった。



