消沈した女子たちの背中が消えて、指導室の扉が閉じた。
「やれやれ、往生際が悪いね。僕に反論するなら、もっと頭を使ってほしいものだよ」
千野が大袈裟に、ふぅと息を吐いた。
「動画まで、あったんですね」
知らなかった百瀬は、ちょっと驚いた。
「この動画の提供者も鳴海君だよ。有栖がもらった写真は切り抜きだったようだ。彼女たちが選んだ場所が、悪かったね」
「旧校舎裏、でしたっけ?」
普段から人気がない場所だから、油断したんだろう。
近くにいれば物陰に隠れて動画を取るくらいはできそうだ。
「蹴られる前に助けてあげて欲しかった」
「そうなんだけどね。蹴られていると気が付いてすぐ、助けに入ったみたいだし、結果、彼の機転に助けられたのは事実だ」
確かに千野のいう通りではあるが、何となくモヤる。
「もしかしたら、この一度きりではなかったのかもね。腹に据えかねて動かぬ証拠を残した。と考えると、合点がいく」
「そっか。深山は自分から、そういう話、しなそうですもんね」
動かぬ証拠がなければ、篠崎はきっと言い逃れしていた。
千野の腕に縋り付く篠崎を思い出して、またイラっとした。
(ああいうやり方、好きじゃない)
百瀬の顔を見詰めて、千野が満足そうに笑んだ。
「ヤキモチ、妬いたの?」
千野が自分の腕を振ってみせた。
「別に、そういうんじゃ、ないです」
今まさに考えていたことを言い当てられた気がして、恥ずかしい。
「そうなの? 雫が可愛い顔して怒っていたから、僕は途中から、糾弾どころじゃなかったんだけど」
「へ? 可愛い顔って、何ですか?」
千野がずぃっと百瀬に迫る。
圧に負けて後ろに下がったが、すぐに壁にぶつかった。
両腕で囲われて、逃げ場がない。
(ひぃ! 壁ドン! 壁ドンだ! リアル壁ドン、しかも千野先輩にされるの、怖い)
綺麗な顔がいつもより近い。
見詰められすぎて、身動きが取れない。
「僕が女子に言い寄られたら、雫はヤキモチ、妬くの?」
話すたびに、言葉と共に吐息が触れる。
近すぎて、熱を感じすぎて、心臓がうるさい。
「ヤ、ヤキ……、俺は、えぇと……」
心臓が高鳴り過ぎて、自分が何を話しているのかもわからない。
千野の指が顎に掛って、余計に訳が分からなくなった。
「千野先輩に、触るのは、俺が良い、かも……」
やっとのことで出た言葉に、即座に後悔した。
(何言ってんだ、俺ー! 訳わかんない独占欲! 恋人でもないのに!)
頭はテンパっているのに、千野の顔はまだ目の前にある。
それどころか、どんどん近付いている。
「じゃぁ、キス、する?」
「ぇっ……、ちょ……、まっ……」
千野が躊躇ない。
少しでも動いたら本当に触れてしまいそうで、固まる。
(じゃぁ、の意味、わかんない。このままじゃ、触れちゃぅ。どうすれば……、あ、もう、無理)
頭から湯気が昇る勢いでヒートアップした。
キャパ越えして、頭が真っ白になった。
「いい加減にしろ、ガキども~。いや、おこちゃまたち~。先生、これでも生徒指導だぞ」
大変良いタイミングで、四万十川が扉を開けた。
千野が体を話したので、やっと力が抜けた。
「もうちょっとで雫が誤魔化されてくれたのに。嫌なタイミングで邪魔しますね、先生」
「未遂で終わって良かっただろ。反省しろ」
変な力が入って疲れた体が、へなへなと萎む。
無意識で千野の肩に凭れた。
「雫、大丈夫?」
「ダメです。ああいう冗談は、受け止めきれません」
百瀬の体を受け止めて、ここぞとばかりに抱き寄せる。
されるがまま、腕をだらりと投げ出して脱力した。
「冗談なわけないよね。もう少しだったのになぁ」
「冗談にしてください。ダメです、そういうの」
残念そうな言葉とは裏腹に、千野がご機嫌だ。
あんな風に迫って萎んだ風船のようになった百瀬を抱きしめるのが目的だったんだろうか。
(何を考えてるのか、わかんない。だって、先輩に告白されてない。好きって、言われてない)
大事な言葉は言わないのに、そういう接触が多すぎて、大変戸惑う。
(告られたら良しってわけでも、ないけどさ。これじゃ、意識しまくって、気が狂いそう)
遊んでいるのか本気なのかも、わからないのに。
自分ばかりが千野を意識して、恥ずかしい。
(腐男子だけど、ストレートのはずなのに。自分がBLしたいわけじゃないのに)
BL的シチュを、千野により散々経験させられている。
リアル壁ドンの距離感は思っていた以上に近くて緊張すると、百瀬は学習した。
「やれやれ、往生際が悪いね。僕に反論するなら、もっと頭を使ってほしいものだよ」
千野が大袈裟に、ふぅと息を吐いた。
「動画まで、あったんですね」
知らなかった百瀬は、ちょっと驚いた。
「この動画の提供者も鳴海君だよ。有栖がもらった写真は切り抜きだったようだ。彼女たちが選んだ場所が、悪かったね」
「旧校舎裏、でしたっけ?」
普段から人気がない場所だから、油断したんだろう。
近くにいれば物陰に隠れて動画を取るくらいはできそうだ。
「蹴られる前に助けてあげて欲しかった」
「そうなんだけどね。蹴られていると気が付いてすぐ、助けに入ったみたいだし、結果、彼の機転に助けられたのは事実だ」
確かに千野のいう通りではあるが、何となくモヤる。
「もしかしたら、この一度きりではなかったのかもね。腹に据えかねて動かぬ証拠を残した。と考えると、合点がいく」
「そっか。深山は自分から、そういう話、しなそうですもんね」
動かぬ証拠がなければ、篠崎はきっと言い逃れしていた。
千野の腕に縋り付く篠崎を思い出して、またイラっとした。
(ああいうやり方、好きじゃない)
百瀬の顔を見詰めて、千野が満足そうに笑んだ。
「ヤキモチ、妬いたの?」
千野が自分の腕を振ってみせた。
「別に、そういうんじゃ、ないです」
今まさに考えていたことを言い当てられた気がして、恥ずかしい。
「そうなの? 雫が可愛い顔して怒っていたから、僕は途中から、糾弾どころじゃなかったんだけど」
「へ? 可愛い顔って、何ですか?」
千野がずぃっと百瀬に迫る。
圧に負けて後ろに下がったが、すぐに壁にぶつかった。
両腕で囲われて、逃げ場がない。
(ひぃ! 壁ドン! 壁ドンだ! リアル壁ドン、しかも千野先輩にされるの、怖い)
綺麗な顔がいつもより近い。
見詰められすぎて、身動きが取れない。
「僕が女子に言い寄られたら、雫はヤキモチ、妬くの?」
話すたびに、言葉と共に吐息が触れる。
近すぎて、熱を感じすぎて、心臓がうるさい。
「ヤ、ヤキ……、俺は、えぇと……」
心臓が高鳴り過ぎて、自分が何を話しているのかもわからない。
千野の指が顎に掛って、余計に訳が分からなくなった。
「千野先輩に、触るのは、俺が良い、かも……」
やっとのことで出た言葉に、即座に後悔した。
(何言ってんだ、俺ー! 訳わかんない独占欲! 恋人でもないのに!)
頭はテンパっているのに、千野の顔はまだ目の前にある。
それどころか、どんどん近付いている。
「じゃぁ、キス、する?」
「ぇっ……、ちょ……、まっ……」
千野が躊躇ない。
少しでも動いたら本当に触れてしまいそうで、固まる。
(じゃぁ、の意味、わかんない。このままじゃ、触れちゃぅ。どうすれば……、あ、もう、無理)
頭から湯気が昇る勢いでヒートアップした。
キャパ越えして、頭が真っ白になった。
「いい加減にしろ、ガキども~。いや、おこちゃまたち~。先生、これでも生徒指導だぞ」
大変良いタイミングで、四万十川が扉を開けた。
千野が体を話したので、やっと力が抜けた。
「もうちょっとで雫が誤魔化されてくれたのに。嫌なタイミングで邪魔しますね、先生」
「未遂で終わって良かっただろ。反省しろ」
変な力が入って疲れた体が、へなへなと萎む。
無意識で千野の肩に凭れた。
「雫、大丈夫?」
「ダメです。ああいう冗談は、受け止めきれません」
百瀬の体を受け止めて、ここぞとばかりに抱き寄せる。
されるがまま、腕をだらりと投げ出して脱力した。
「冗談なわけないよね。もう少しだったのになぁ」
「冗談にしてください。ダメです、そういうの」
残念そうな言葉とは裏腹に、千野がご機嫌だ。
あんな風に迫って萎んだ風船のようになった百瀬を抱きしめるのが目的だったんだろうか。
(何を考えてるのか、わかんない。だって、先輩に告白されてない。好きって、言われてない)
大事な言葉は言わないのに、そういう接触が多すぎて、大変戸惑う。
(告られたら良しってわけでも、ないけどさ。これじゃ、意識しまくって、気が狂いそう)
遊んでいるのか本気なのかも、わからないのに。
自分ばかりが千野を意識して、恥ずかしい。
(腐男子だけど、ストレートのはずなのに。自分がBLしたいわけじゃないのに)
BL的シチュを、千野により散々経験させられている。
リアル壁ドンの距離感は思っていた以上に近くて緊張すると、百瀬は学習した。



