「ちょっと運が良すぎなんとちゃうー?」
列矢がやや呆れた声で、棚の上から包丁のようなものを手に取った。
「葉流はんとやら。実はこの部屋が武器庫やって知ってたんちゃうの?」
「まさか。偶然ですよ」
葉流は数本のサバイバルナイフのようなものを貰うつもりのようだった。カバー部分がベルトに通せるようになっているらしい。まるで侍のように腰から引き抜いて使えるようにしたいようだ。なんとも手慣れた仕草である。
「ただ、ここから先は本格的に“戦い”がメインの試練になるでしょうから。武器が調達できたことは僥倖でしょう」
「ぎょうこう?」
「ラッキーだったってことです」
確かに。たまたまであろうが、逃げ出した先に飛び込んだ部屋で、これだけ物資を調達できるのは幸運だったと言わざるを得ない。逢花は棚の上に、まるで賞品のように陳列された品々を見つめながら思う。まるで、RPGのゲームにでも出てきそうなロングソードの類から、小さなピストルっぽいものまである。ピストルもいくつか種類があり、どうやら普通の弾丸を装填してあるものから麻酔銃のようなものまで様々であるようだった。
反動が少ないものならば、小柄な逢知でも持たせられるかもしれない。そう思いつつ、武器を吟味する逢花である。――自分でも驚くほど、腹をくくっている己がいた。一人じゃない、仲間がいる。そしてずっと案じていた弟とその友人が見つかったという心理的安堵は非常に大きい。聞けば、お化け屋敷に突入したのはあくまで逢知と列矢の二人だけだったということ。ならば、他の友人達が被害に遭っている可能性は低いだろう。
「あ」
肝心の自分は、どんな武器で行くのがいいだろう。悩んでいたところで、何か大きな物体が目に入った。逢花は目を丸くする。それ、はとてもじゃないがこの場にあることが似つかわしくないものに思えたからだ。
――え、え?もしかして、これも武器って扱いなの?
それ、を抱え上げて表面をこつこつと叩いたり、床に落としてみたりする。不思議だった。表はしっかりと硬いのに、ちゃんと弾む。一体どんな素材でできているのだろう。
「自分に合う武器、見つかりました?」
「あ、はい」
鈍器も凶器もしっくりきていなかった自分にとって、これは唯一手に馴染むものだった。これは天啓だ、と逢花はナップザック状態の袋に入れてそれを持ち運ぶことに決める。うまくいけば、自分も少しは戦いで葉流の役に立つことができるかもしれない。
葉流に呼ばれてそちらに行けば、逢知と列矢も武器を選び終えたところであったようだ。逢知は何やら催涙スプレーのようなものを選んだらしい。なるほど、ヘタに凶器の類を持つより安全に敵の足を止められるものかもしれない。
「武器はいいけど、肝心なのはあの女がどこに行ってるか、だろ。フロアは二階分あるし、闇雲に探しても見つからないんじゃねーの?」
スプレー缶の説明書を見ながら逢知が言いだす。言っている内容は間違ってないが、缶に書いてあることが理解できているかはだいぶ怪しい。なんせこいつときたら、漢字テストが壊滅的なのだ。本も読まないし、どこまで漢字の類を読めているのやら。まあルビの振ってある漫画は読んでいるはずなので、存外漢字を“読む”のはできるのかもしれないけれど。
「そこが、少し疑問だったんですよね」
眉をひそめている逢知に、難しそうな漢字を教えてやりながら葉流が言う。
「さっき、広間に“参加者”として集められた人数、何人くらいいたと思います?……はっきりとわかりませんが、目測で四十人はいたと思うんですよね」
「え、そんなに?」
「はい。……そう考えると、逆にこのフロア二階分って狭いくらいだと思うんですよ。四十人がフロア中をしらみつぶしに探して、たった一人を見つけることもできないってあると思います?勿論怪物の襲撃で多少人数は減るでしょうが、それでも時間の問題であるような気がしてならないんです」
言われてみれば、その通りだ。罠のある部屋もあると礼子は言っていたが、よくよく考えてみれば即死級の罠があるような部屋には彼女だって入ることができないはずである。つまり、そこにこっそり隠れておく、なんてことができるはずもない。
とすると、考えられるのは彼女がなんらかの理由で“絶対見つからない”確信があるか、あるいは見つかっても対処できると思っているかのどちらかなのではなかろうか。
「本人だけが隠れられる、特別な場所を知ってる……とか?」
「それもなくはない、んですけど。僕はどちらかというと、“見つかっても対処できる”もしくは“見つからないようにする方法がある”だと思ってます」
だって、と彼が広場の方向に視線を投げながら言う。
「あんなでっかいモニターに、堂々と幹部が顔出しして出張ってきたのはなんでだと思います?しかも、自分を殺してもいいなんてルールを設けて、命の危険があるはずのゲームに自ら乗り出してきている。……参加者はみんな、無理やり拉致されてきてこのゲームに参加させられ、ずっと怖い思いをさせられてきた人たちばかりであるはずです。相当アランサの使徒に恨みを持っている。見つかって、戦いになったら本当に殺される可能性が高いにも関わらず」
言われてみればそうだ。幹部なら、ずっとふんぞり返ってモニタールームで観戦でもしれいていれば良かったはず。今まで、アナウンスを流すばかりだったのはつまりそういうことだろう。とすれば。
「超絶な目立ちたがり屋で派手好きなんとちゃう?」
列矢が呆れたように告げる。確かに、それ以外に考えられないかもしれない。
「概ねその通りだと思います。でもって、そんな“超絶迷惑な構ってちゃん”が、ただかくれんぼするだけで満足するとは思えないです。むしろ、見つけてからが本番だと思っていそう。自分で戦いたいから、かくれんぼにした可能性が高いとさえ踏んでいますね、僕は」
「ってことは?」
「恐らく、見つける作業はそう難しいものではないのだと思います。下手したら、隠れることもせず堂々とフロア内を歩いてらっしゃるかもしれません」
かくれんぼじゃないじゃん、と逢花はため息をついた。なんというか、いい歳をした大人が残念すぎやしないだろうか。それで、イチ宗教団体の幹部というのも含めて。
「なあなあ、不思議に思ったんだけどさ」
葉流からスプレー缶を返してもらいながら逢知が言う。
「あの罪喰いとかいかいう怪物。あの女を襲ってくれるってのはないのかな。あの怪物に、アランサの人間とそれ以外を見分けるアタマがあるように見えねーんだけど」
「そういえば、そうかも?」
「あの怪物があの女襲って喰ったら、どうなるのかな。あいつの死体に触って“捕まえた、ゲーム終了”って言ってもOKであってる?」
「それでいいんじゃないか?だって、自分の生死は問わないって、あの女が自分で言ってたんだし……」
ただ、ゲームの性質上、怪物が女を殺してしまったら成り立っていないような気がするのは事実である。アランサの使徒は、あくまで怪物をかわしてターゲットを見つけて冷静に対処できる人材を欲しているように思われるからだ。
ということは、駒村礼子は怪物に襲われない理由がある、と考えた方が自然であるような気がしてくるが。
「……逢知、ちょっといい?」
これも、きっと謎解きだ。逢花は思いついたことを口にしてみる。
「逢知は能力で、バケモノ……およびこっちに殺意を抱くような存在を察知できるんだったよな?……ちょっとその能力、使って貰ってもいいか?今怪物はどのへんにいるんだろうかと思ってさ」
「え?……あ、そっか。俺達他のグループと揉めてたりしないし、殺意を抱く相手って言ったらほぼほぼ怪物になるもんな。わかった、ちょっとやってみるよ。いつまでもこの部屋に籠城できねーし」
「頼んだ」
怪物の動き方を知れば、何かがわかるかもしれない。逢知は己のブレスレットのボタンを押して、ぽつりと唱える。
「発動、“殺意”」
自分達には見えない景色、あるいは未知なる感覚が彼の体を襲っているはずだった。しばらく目を瞑って集中していた逢知は、やや戸惑ったような声で言う。
「……怪物、このドアの前を通り過ぎて奥まで走っていったぽい?ていうか地図と照らし合わせてみると、あの広場の左の通路と右の通路って最終的には繋がってたんだね」
そういえばそうだった、と逢花は己のマップを表示させて言う。現在自分達がいるのは地下四階Gエリア。真ん中が吹き抜けになっているのか、Gエリアは真ん中がすっぽり抜けた四角いドーナツ状の形をしている。その上の地下三階Gエリアも同じ。やや横長の長方形の、真下部分に広場があって、自分達はそこに集合していたようだ。そこから左右に三本ずつ伸びた通路は、最終的にドーナツの上部分で合流しているというわけである。
仮にこのドーナツの上部分が北とするなら。上の階に繋がる階段は、北東と北西に一つずつ位置していることになるだろう。
「……怪物、人を襲ってるのかも。さっきから、この地下三階の……北東のあたりをずっとうろちょろしてるっぽい。……また、誰かが死ぬのかな」
「逢知……」
「早く、ゲームをクリアしないと。ゲームが終わればきっと、全員が解放されるんだから……」
「……ありがと、もういいよ」
ボタンから指を離した途端、逢知はやや脱力したように座り込んだ。どうやら、思ったよりこの力の発動は気力体力を使うということらしい。
「この倉庫に入ってから二十分以上過ぎましたけど、怪物はまだ地下四階にいるのですね」
何かを考え込んでいる様子で、葉流が告げる。
「ひょっとしたら、地下三階に怪物は上がれないのでは?階段が非常に狭いとか、嫌な臭いがするとかで。……もしそんな制約を設けているとしたら……」
「あの女は、地下三階にいる!?」
「その可能性が非常に高いということになるのではないかと。地下三階に怪物が来ないとわかっているなら、安心してかくれんぼすることもできるでしょうからね」
強い根拠があるわけではないが、十分可能性として考えられることではある。ならば、少しでも早く自分達は怪物を掻い潜り、階段を使って上に上がる努力をするべきだろう。
「怪物が北東あたりをうろついているなら、今のうちに北西の階段から抜けてしまうのが吉ですね。上がったら、二手に分かれて探索しますか。戦闘能力を鑑みるなら、探索型一人、戦闘型一人で振り分けた方がいいでしょう」
その時の葉流の提案は、極めて真っ当なものだと思った。ゆえに、逢花も異論なく頷いたのだ。
「そうだね。通じないけど一応連絡先交換しておこうか、スマホ。でもって、何かあったら上がってきた北西の階段に集合するってことで、どう?」
「異議なし。じゃあ、俺と葉流さん、姉ちゃんと列矢のコンビで動くってことで」
「ええ」
「OKやで」
そう、だから。
この時は思いもしなかったのだ。この選択が、あのような状況を招くことになるなんてことは。
列矢がやや呆れた声で、棚の上から包丁のようなものを手に取った。
「葉流はんとやら。実はこの部屋が武器庫やって知ってたんちゃうの?」
「まさか。偶然ですよ」
葉流は数本のサバイバルナイフのようなものを貰うつもりのようだった。カバー部分がベルトに通せるようになっているらしい。まるで侍のように腰から引き抜いて使えるようにしたいようだ。なんとも手慣れた仕草である。
「ただ、ここから先は本格的に“戦い”がメインの試練になるでしょうから。武器が調達できたことは僥倖でしょう」
「ぎょうこう?」
「ラッキーだったってことです」
確かに。たまたまであろうが、逃げ出した先に飛び込んだ部屋で、これだけ物資を調達できるのは幸運だったと言わざるを得ない。逢花は棚の上に、まるで賞品のように陳列された品々を見つめながら思う。まるで、RPGのゲームにでも出てきそうなロングソードの類から、小さなピストルっぽいものまである。ピストルもいくつか種類があり、どうやら普通の弾丸を装填してあるものから麻酔銃のようなものまで様々であるようだった。
反動が少ないものならば、小柄な逢知でも持たせられるかもしれない。そう思いつつ、武器を吟味する逢花である。――自分でも驚くほど、腹をくくっている己がいた。一人じゃない、仲間がいる。そしてずっと案じていた弟とその友人が見つかったという心理的安堵は非常に大きい。聞けば、お化け屋敷に突入したのはあくまで逢知と列矢の二人だけだったということ。ならば、他の友人達が被害に遭っている可能性は低いだろう。
「あ」
肝心の自分は、どんな武器で行くのがいいだろう。悩んでいたところで、何か大きな物体が目に入った。逢花は目を丸くする。それ、はとてもじゃないがこの場にあることが似つかわしくないものに思えたからだ。
――え、え?もしかして、これも武器って扱いなの?
それ、を抱え上げて表面をこつこつと叩いたり、床に落としてみたりする。不思議だった。表はしっかりと硬いのに、ちゃんと弾む。一体どんな素材でできているのだろう。
「自分に合う武器、見つかりました?」
「あ、はい」
鈍器も凶器もしっくりきていなかった自分にとって、これは唯一手に馴染むものだった。これは天啓だ、と逢花はナップザック状態の袋に入れてそれを持ち運ぶことに決める。うまくいけば、自分も少しは戦いで葉流の役に立つことができるかもしれない。
葉流に呼ばれてそちらに行けば、逢知と列矢も武器を選び終えたところであったようだ。逢知は何やら催涙スプレーのようなものを選んだらしい。なるほど、ヘタに凶器の類を持つより安全に敵の足を止められるものかもしれない。
「武器はいいけど、肝心なのはあの女がどこに行ってるか、だろ。フロアは二階分あるし、闇雲に探しても見つからないんじゃねーの?」
スプレー缶の説明書を見ながら逢知が言いだす。言っている内容は間違ってないが、缶に書いてあることが理解できているかはだいぶ怪しい。なんせこいつときたら、漢字テストが壊滅的なのだ。本も読まないし、どこまで漢字の類を読めているのやら。まあルビの振ってある漫画は読んでいるはずなので、存外漢字を“読む”のはできるのかもしれないけれど。
「そこが、少し疑問だったんですよね」
眉をひそめている逢知に、難しそうな漢字を教えてやりながら葉流が言う。
「さっき、広間に“参加者”として集められた人数、何人くらいいたと思います?……はっきりとわかりませんが、目測で四十人はいたと思うんですよね」
「え、そんなに?」
「はい。……そう考えると、逆にこのフロア二階分って狭いくらいだと思うんですよ。四十人がフロア中をしらみつぶしに探して、たった一人を見つけることもできないってあると思います?勿論怪物の襲撃で多少人数は減るでしょうが、それでも時間の問題であるような気がしてならないんです」
言われてみれば、その通りだ。罠のある部屋もあると礼子は言っていたが、よくよく考えてみれば即死級の罠があるような部屋には彼女だって入ることができないはずである。つまり、そこにこっそり隠れておく、なんてことができるはずもない。
とすると、考えられるのは彼女がなんらかの理由で“絶対見つからない”確信があるか、あるいは見つかっても対処できると思っているかのどちらかなのではなかろうか。
「本人だけが隠れられる、特別な場所を知ってる……とか?」
「それもなくはない、んですけど。僕はどちらかというと、“見つかっても対処できる”もしくは“見つからないようにする方法がある”だと思ってます」
だって、と彼が広場の方向に視線を投げながら言う。
「あんなでっかいモニターに、堂々と幹部が顔出しして出張ってきたのはなんでだと思います?しかも、自分を殺してもいいなんてルールを設けて、命の危険があるはずのゲームに自ら乗り出してきている。……参加者はみんな、無理やり拉致されてきてこのゲームに参加させられ、ずっと怖い思いをさせられてきた人たちばかりであるはずです。相当アランサの使徒に恨みを持っている。見つかって、戦いになったら本当に殺される可能性が高いにも関わらず」
言われてみればそうだ。幹部なら、ずっとふんぞり返ってモニタールームで観戦でもしれいていれば良かったはず。今まで、アナウンスを流すばかりだったのはつまりそういうことだろう。とすれば。
「超絶な目立ちたがり屋で派手好きなんとちゃう?」
列矢が呆れたように告げる。確かに、それ以外に考えられないかもしれない。
「概ねその通りだと思います。でもって、そんな“超絶迷惑な構ってちゃん”が、ただかくれんぼするだけで満足するとは思えないです。むしろ、見つけてからが本番だと思っていそう。自分で戦いたいから、かくれんぼにした可能性が高いとさえ踏んでいますね、僕は」
「ってことは?」
「恐らく、見つける作業はそう難しいものではないのだと思います。下手したら、隠れることもせず堂々とフロア内を歩いてらっしゃるかもしれません」
かくれんぼじゃないじゃん、と逢花はため息をついた。なんというか、いい歳をした大人が残念すぎやしないだろうか。それで、イチ宗教団体の幹部というのも含めて。
「なあなあ、不思議に思ったんだけどさ」
葉流からスプレー缶を返してもらいながら逢知が言う。
「あの罪喰いとかいかいう怪物。あの女を襲ってくれるってのはないのかな。あの怪物に、アランサの人間とそれ以外を見分けるアタマがあるように見えねーんだけど」
「そういえば、そうかも?」
「あの怪物があの女襲って喰ったら、どうなるのかな。あいつの死体に触って“捕まえた、ゲーム終了”って言ってもOKであってる?」
「それでいいんじゃないか?だって、自分の生死は問わないって、あの女が自分で言ってたんだし……」
ただ、ゲームの性質上、怪物が女を殺してしまったら成り立っていないような気がするのは事実である。アランサの使徒は、あくまで怪物をかわしてターゲットを見つけて冷静に対処できる人材を欲しているように思われるからだ。
ということは、駒村礼子は怪物に襲われない理由がある、と考えた方が自然であるような気がしてくるが。
「……逢知、ちょっといい?」
これも、きっと謎解きだ。逢花は思いついたことを口にしてみる。
「逢知は能力で、バケモノ……およびこっちに殺意を抱くような存在を察知できるんだったよな?……ちょっとその能力、使って貰ってもいいか?今怪物はどのへんにいるんだろうかと思ってさ」
「え?……あ、そっか。俺達他のグループと揉めてたりしないし、殺意を抱く相手って言ったらほぼほぼ怪物になるもんな。わかった、ちょっとやってみるよ。いつまでもこの部屋に籠城できねーし」
「頼んだ」
怪物の動き方を知れば、何かがわかるかもしれない。逢知は己のブレスレットのボタンを押して、ぽつりと唱える。
「発動、“殺意”」
自分達には見えない景色、あるいは未知なる感覚が彼の体を襲っているはずだった。しばらく目を瞑って集中していた逢知は、やや戸惑ったような声で言う。
「……怪物、このドアの前を通り過ぎて奥まで走っていったぽい?ていうか地図と照らし合わせてみると、あの広場の左の通路と右の通路って最終的には繋がってたんだね」
そういえばそうだった、と逢花は己のマップを表示させて言う。現在自分達がいるのは地下四階Gエリア。真ん中が吹き抜けになっているのか、Gエリアは真ん中がすっぽり抜けた四角いドーナツ状の形をしている。その上の地下三階Gエリアも同じ。やや横長の長方形の、真下部分に広場があって、自分達はそこに集合していたようだ。そこから左右に三本ずつ伸びた通路は、最終的にドーナツの上部分で合流しているというわけである。
仮にこのドーナツの上部分が北とするなら。上の階に繋がる階段は、北東と北西に一つずつ位置していることになるだろう。
「……怪物、人を襲ってるのかも。さっきから、この地下三階の……北東のあたりをずっとうろちょろしてるっぽい。……また、誰かが死ぬのかな」
「逢知……」
「早く、ゲームをクリアしないと。ゲームが終わればきっと、全員が解放されるんだから……」
「……ありがと、もういいよ」
ボタンから指を離した途端、逢知はやや脱力したように座り込んだ。どうやら、思ったよりこの力の発動は気力体力を使うということらしい。
「この倉庫に入ってから二十分以上過ぎましたけど、怪物はまだ地下四階にいるのですね」
何かを考え込んでいる様子で、葉流が告げる。
「ひょっとしたら、地下三階に怪物は上がれないのでは?階段が非常に狭いとか、嫌な臭いがするとかで。……もしそんな制約を設けているとしたら……」
「あの女は、地下三階にいる!?」
「その可能性が非常に高いということになるのではないかと。地下三階に怪物が来ないとわかっているなら、安心してかくれんぼすることもできるでしょうからね」
強い根拠があるわけではないが、十分可能性として考えられることではある。ならば、少しでも早く自分達は怪物を掻い潜り、階段を使って上に上がる努力をするべきだろう。
「怪物が北東あたりをうろついているなら、今のうちに北西の階段から抜けてしまうのが吉ですね。上がったら、二手に分かれて探索しますか。戦闘能力を鑑みるなら、探索型一人、戦闘型一人で振り分けた方がいいでしょう」
その時の葉流の提案は、極めて真っ当なものだと思った。ゆえに、逢花も異論なく頷いたのだ。
「そうだね。通じないけど一応連絡先交換しておこうか、スマホ。でもって、何かあったら上がってきた北西の階段に集合するってことで、どう?」
「異議なし。じゃあ、俺と葉流さん、姉ちゃんと列矢のコンビで動くってことで」
「ええ」
「OKやで」
そう、だから。
この時は思いもしなかったのだ。この選択が、あのような状況を招くことになるなんてことは。



