姫ポジ男子だって恋したい

 冬期講習も二十五日の終業式で終わり。街はクリスマス一色だった。駅に置かれたツリーのオレンジの電飾が白い息に混じる。
 体育館で校長先生の話を聞く。二期制だから通知表はなかったけど、全教科のテストが返ってきた。数学、セーフ。平均点は取れている。肩の強ばりが溶けた。チカチカ、簡単に残機回復。
 ちらっと横を見る。王子、国語の点数はどうだったんだよ。
 部活になって、オレは新しい手ぬぐいを出した。深谷にもらった、桃の花びらが散るピンクの手ぬぐい。それを頭に巻こうと額に当てると、深谷が近づいてきた。オレの頭をちょんとつつく。
「あの日買ったやつ、全然使わないなって思ってた」
 寂しげな口調で言うので「とっといたの!」と笑ってみせた。
「クリスマスに使うと、プレゼントって感じになるじゃん」
 すると深谷は手にしていた手ぬぐいをしまい、雪だるまの柄のを出してきた。その表面をさらりと撫でる。
「俺もそうする」
「いいな。交換したって感じ」
 なんだか深谷が嬉しそうに手ぬぐいを巻き始めた。その手つきがいつもより丁寧な気がする。きりっとした眉が今日はやわらかくカーブしている。瞬きで上下する睫毛が雪だるまの白さに映えていい。
 同じ日に買ったやつをつけてくれる。ちょっとくすぐったいけど、なんだか嬉しい。
 最近王子の仮面が外れるところを見かける。深谷のそういうところを見ると胸がぽっと温かくなる。
 明日から三日間は冬休みでも部活がある。朝からあるから、走り込みとかもてんこ盛り。だけど、この三日間で深谷からもらった手ぬぐいを使い回す。元気が出るアイテムは大事だ。
「ありがとうございました!」
 部活を終えて着替える。更衣室は体育館の一番外側だ。天井近くの窓から差し込む日差しに(ほこり)がきらきらして見える。
「お疲れさまでした」
 ネイビーのコートの深谷がロッカーの扉を閉めて出ていく。手ぬぐいのことをもう少しだけ話したかった。でも、更衣室内の掃除が大事。礼の話を聞いてから、最後まで残って忘れ物の確認やゴミ拾いをして帰るようにしている。
「お疲れさまでした」
 最後の先輩を見送ると、ベンチやロッカーについた札の傾きなどを直す。そこへ更衣室のドアがノックされ、深谷が不思議そうに戻って来た。
「桃瀬、まだ帰らねえのかよ」
「掃除する。なんか、落ち着くから」
「……そんなことしてたの、知らなかった」
「礼に始まり礼に終わる、だろ。終わりをちゃんとしたい」
 すると深谷が「俺もやる」とコートを脱ぐ。無言で汗くささの残る更衣室を掃除する。しんと静まる冬の部屋。
 体育みたいに全員でなにかをするのは好き。こうやって二人で手分けしてやるのは、首の後ろがくすぐったい。
 今日は教室の大掃除もしたから、目が細かいところにも行く。電気のスイッチも拭くと、深谷が「床は終わり」と声をかけてきた。
「じゃあ終了」
「今日もありがとうございました」
 二人で更衣室に礼をして体育館を出て、昇降口へ向かう。開きっぱなしの玄関扉から真冬の風が吹き込んで寒い。
「さむっ。クリスマス、目には温かいけど、ホント寒い」
 手袋の指をこすり合わせると、自転車を押す深谷が曲がり角を指した。
「コンビニ寄らねえ? 高校生の部活の帰り道っつったら買い食いだろ」
「肉まんかおでん!」
 二人で小走りになってコンビニへ行く。暖かい店内に飛び込むと、ピロンと自動ドアの音がした。レジカウンター側へ直行する。
「オレどうしよう……肉まん……あんまんもいいけど」
「桃瀬がおでんとか言うから、口がおでんだよ」
「じゃあオレもそうしよ」
 二人で「ひとつ百十円」の札を眺める。白い湯気とにおいにお腹がやられる。
「オレ、大根とちくわと卵……ウィンナーもいい」
「俺は卵ともち巾着、厚揚げ、ちくわぶ」
「即決王子」
「卵ともち巾着は外せねえ」
「それは大根でしょ」
 あれこれ言いながら選び、外に出ると車止めに腰かけて割り箸で食べた。白い息とおでんの湯気が混ざる。はふはふ食べる湯気の向こうで、深谷の整った横顔が頬と鼻先を赤くさせている。
「深谷の家、買い食いとかして怒られないの」
 昔話を聞いて、厳しい家なんだろうという気がしたので聞いてみた。深谷が肩をすくめて汁を飲む。
「剣道をやめてから親の締めつけが緩和した。追い詰めすぎたと思ったらしい。また始めたから喜んでる」
 なるほど。そう思いながらだしの利いた汁を飲む。体の中心からほかほかしてきて、マフラーが暑くなってきた。すると深谷から話を振ってくる。
「お前、初詣行く?」
「保科たちと約束した。学校の近くのでかいとこ。なんとか八幡宮」
「……そう」
 コンビニの前で自動ドアが開いて店員の声だけが響く。ほんの一瞬の静けさが妙に心に残る。深谷がまた一口汁を啜って言う。
「あそこ、混雑やばそうだな」
「あの参道の広さはね。正月すごいんだろうなって想像がつく」
「あそこは御朱印(ごしゅいん)が有名だろ? 期間限定があって、コレクターが来るって聞いたことあるぞ」
「うわ、正月すごそう。ま、そういう初詣も悪くないかも」
 すると深谷も「だな」とぽつりと言った。
 おでんで温まると、分かれ道でバイバイして駅まで走った。明日から一日部活。笹原とまた当たるだろうから少しは進歩していたい。
 三日間の部活を終えて、学校も閉鎖期間に入る。宿題が泣けてくる。
 神様、百人一首ってなんで百個もあんの? 誰だよ、正月と百人一首を結びつけたやつ。竹刀を持ってかかってこい。