翌日も水沢と一緒にパンを食べた。
「あー、また水沢と食べてる」
「うん。いいでしょ」
「な、水沢転校するってほんと?」
「……本当だ」
 仲村の友だちが寄ってくると、昨日と違って水沢も話に加わっている。でも、緊張気味に頬が強張っているし、あまり楽しそうではない。自分とふたりで話しているときとは大違いだ。
 友だちが去ると、水沢は深い息を吐き出した。
「疲れた。人と話すのは疲れる」
 首や肩を動かして、力を抜いている姿に首をかしげる。
「俺と話すのも疲れる?」
 もしそうならば、あまり話しかけないほうがいいかもしれない。若干の不安とともに水沢に問うと、相手はふいと視線を逸らした。
「……仲村は別」
「よかった」
 仲村がほっとすると、水沢は目を逸らしたまま口をもごもごと動かした。なにか言おうか言うまいか、悩んでいるように見える。
「どうしたの?」
「……」
 水沢は綺麗な形の唇を開いて閉じて、そのまま引き結んだ。小さく首を左右に振って、ひとつ息を吐き出している。そのままなんとなく無言になって、ふたりでパンを食べる。
 水沢はもうすぐ引っ越してしまう。長く一緒にいられないのだと思ったら、時間がもったいなく感じた。
「明日遊ぼうよ」
「え?」
「休みだし。あ、なにか用事ある?」
「ない、けど」
 唇を結んだあとに頷いてくれたので、オーケーということだ。早速張り切って行き先を相談する。水沢はどういうところが好きなのだろう。
「水沢はどこ行きたい?」
「公園」
「公園?」
「そう。公園が好き」
 ゲームセンターとか映画とか、そういう答えを想像していた。スマートフォンを出して、近くの大きな公園を検索する。
「せっかくだから、めちゃくちゃ大きい公園に行こうよ」
 そんなところが近くにあるのかはわからないが、できるだけ大きいところのほうが水沢が喜びそうだ。
 スマートフォンで公園を調べていると、視線を感じて顔をあげる。水沢がじっと見ていた。
「仲村って珍しいな」
「なんで?」
 そんなに変わったところがあるだろうか。自分ではわからないし、特段珍しさなんてない平凡な存在だと思っていた。
「なんかわからないけど、普通と違う」
「どういう意味?」
「うん、なんだろうな」
 言った水沢も不思議そうにしているので、ふたりで首をかしげた。
 水沢は、ときどきよくわからない。