一葉って俺が好きなんじゃないの?
そう言ってたよね?

左野(さの)くん、相変わらずかっこいいー!」
「ありがとう」
「ねえねえ、今彼女いるの?」
「今度ご飯食べに行かない?」
「左野くん、写真撮っていい?」

いーっぱい女の人に囲まれて楽しそうじゃん!!

中学三年のときの担任の先生が定年を迎えるとのことで、どうせなら集まれる人は集まろうって同窓会。
中三のときは一葉と同じクラスだった。
それで一緒に会場の居酒屋の個室に入った途端に一葉は女子に囲まれた。

なんだよなんだよなんだよ。
一葉なんて知らない!

「本多、久しぶり」
「山野辺…久しぶり。なんか全然変わらないね」
「本多も」

優しい笑顔も変わらない、クラス委員だった山野辺が俺の隣に座った。

「左野、相変わらずだな」
「うん…」

ほんと相変わらずだよ。
まあ、そういうの無視できないのも一葉のいいところなんだけど。
昔は羨ましかったな。
でも、今もやもやするのは羨ましいからじゃないみたいだ。

ぐっとグラスのビールを飲み干す。

「へえ、本多って結構飲めるんだ?」
「…飲めるわけじゃないけど」
「俺が注ぐよ」

山野辺が俺のグラスにビールを注いでくれる。
また飲み干す。
更に注いでくれる。

「本多、大丈夫?」
「…んー…だいじょぶ」
「全然大丈夫そうじゃないよ」
「へーきへーき」

続けてビールを飲もうとしたらグラスが取り上げられた。

「なにやってんの」
「いつは…?」
「山野辺、こいつめちゃくちゃ弱いから飲ませないで」
「あ、そうなの? ごめん、気付かなくて」
「深來、こっちこい」
「んあー?」

手を引かれてふたりで個室を出る。
ふわふわしてる。
そんなに飲んでないのにな。
俺の手を掴む一葉の手が握りたくて、思ったままに握ると一葉が固まった。

「…そんな飲んだのか」
「飲んでない」
「嘘吐け。真っ赤だぞ」
「一葉のせい」

一葉の右手を両手でぎゅっと握る。

「んへへー」
「…ほんと勘弁してくれ」

一葉の顔が超至近距離にある。
少し強引に重なった唇が温かい。
そっと瞼を下ろすと唇が一度離れて、もう一度重ねられた。
キスが解かれて瞼を上げると、じっと目を覗き込まれる。

「……恋人にはしてくれないのに、キスは受け入れんのか」
「え?」
「すげー辛いんだけど」

一葉の言うことは本当にいつも難しくて、俺はわからなくて。
キスを受け入れたのは、ただそうしたかったから。
それが一葉を傷付けるなんて全然思わなかった。