「片付けは俺がやるよ」
「いい。シャワーでも浴びとけ」
「……わかった」

優しい。
言われたとおりにシャワーを浴びて戻ると、一葉が交代でシャワーを浴びる。
泊まるんだ…。
布団出しておこう。
と思ったらすでに出してある。
もうすっかり一葉専用布団だ。
その一葉専用布団に寝転がって天井を見る。
一葉の見ている景色。

「そっちで寝んの?」
「違う。一葉の見てる景色だなって思って見てただけ」

シャワーを浴び終えた一葉がこちらを見ている。
かと思ったら布団に近付いてきた。

「深來も違う。俺の見てる景色はこっち」

ころんと身体を転がされて、ベッドのほうを向かされる。

「? なんでベッド?」
「ベッドじゃなくて、ベッドに寝てるやつを見てる」
「……」

ベッドに寝てるやつって…俺?
まさか泊まりにきてるとき、一葉って俺のこと見てるの!?

「え、え…?」
「気付いてないんだろうとは思ってたけど」
「は? なんで…?」
「まだ『なんで』とか言ってんの? 自分に自信ないのはいいけど、鈍過ぎるのはなんとかしてくれ」

鈍過ぎるって、俺はそこもだめなのか。
また新たな自分を発見した…だめなところ。
一葉は俺のことをびっくりするくらい知ってる。

なんで?

いや、理由は…なんとなくぼんやりわかるんだけど。
わかっても『なんで』が出てしまう。
色んなことに対して『なんで』。

「一葉はなんで俺の恋人になりたいの? 恋人になってどうするの?」

そういえばメッセージの返信なかった。

「俺、だめなところしかないよ。楽しくないよ? 俺なんかだめだよ」

無言。

「なんで幼馴染でいたくないの? なんで恋人? 俺のどこがいいの?」
「また混乱してんのか」
「……」
「混乱を鎮めるためだったら答えない」

一葉が俺の隣に横になって背中をくっつけてくる。
ただ背中が当たってるだけなのにどきどきする。
これも『なんで』。
身体を起こして一葉の顔を見ると、一葉は目を閉じている。

「ねえ一葉、教えて」
「教えて欲しい理由は?」
「え?」
「なんで知りたいの?」

また『なんで』…。
知りたい理由、教えて欲しい理由。

「気になるから」
「好奇心でも教えない」
「じゃあなんなら教えてくれるの?」

珍しく意地悪なことを言う一葉の肩に手を置いて揺する。
その手をぐっと掴まれた。

「深來が俺を知りたいって思ってくれてるなら答える」
「……知りたいよ」
「だから好奇心だろ」
「……」

手をぱっと離されて、また俺は肩を揺する。
好奇心かもしれないけど、でも一葉ばっかり知ってて俺は知らないのも嫌だ。
それとも、俺に話したってわからないって思われてるのかな。
悔しい。
でも聞いても一葉の思うとおり、全くわからないかもしれない…けど!

「一葉を知りたいよ。教えて」

一葉が俺をじっと見る。
真剣な視線が絡みついて、顔が熱くなってくる。

「……後悔すんなよ」
「え…? あ…!」

腕を掴まれて、布団に押し倒された。
慌てて起き上がろうとしても、一葉が覆いかぶさってきて動けない。
それでも身体を捩ろうとしたら体重をかけられて、頬に一葉の唇が触れた。