鏡に映る俺は本当に普通で、そんな自分がすごく嫌。
俺にはなにもない。
秀でたものが欲しい。
例えば。

深來(みらい)、そんなに鏡見ててもなにも変わらないぞ」
「…わかってるよ」

昨日、ふたりで飲んでいてそのままうちに泊まった幼馴染の一葉(いつは)
こいつはたくさん持っている。
誰もが見惚れる外見だけじゃなく、頭もいい。
一葉がそこにいるだけで場が華やぐ。
纏っている空気からして特別なやつ。

「一葉、身体交換しない?」
「……なんで」
「一葉になりたいから」
「………はぁ…」

でっかい溜め息だな。

「深來は俺になったって、自分のないところにばっかり目がいって結局ないものねだりすると思うけど?」
「そんなことない。一葉になれたら俺は完璧」
「それって俺が完璧ってこと?」

頷く。
だって欠点が見当たらない。
いいとこだらけ。
一葉になれば俺だって自分が好きになれる。

「じゃあ、そんな完璧な俺のこと、深來はどう思ってる?」
「羨ましい」
「他は?」
「いいものしか持ってない」
「…あとは?」
「一葉になりたい」

一葉になれたら、絶対俺の人生が変わる。
ほんと、魂とかすーっと抜けて一葉と身体交換できたらいいのに。

「俺はそのままの深來が好きだよ」
「だめだめだめ、俺なんてほんとなにもない」

幼馴染だから優しいこと言ってくれるけど、そういうの抜きにしたら絶対“深來なんかだめ”って思うに決まってる。

「なにかがあるからとか完璧だからとかじゃなくて、深來が深來だから好きだって言ってんだけど」
「…?」

俺が俺だから?
なにが言いたいんだろう。

「なあ…俺、いつまで深來の幼馴染なの?」
「え? 幼馴染、嫌なの?」

そばにいるのも辛いくらい俺が嫌なのか。
そうだよな…迷惑ばっかりかけてるし、いつでも俺の足りないところを補ってくれるのは一葉だ。
昨日だって、酔い潰れた俺を介抱して着替えさせてくれたりした。
面倒になったのか…なるよな。

「……深來、絶対意味わかってねえだろ」
「意味? 幼馴染でいるのが嫌になるくらい俺が面倒で邪魔ってことでしょ?」

うん、口に出したらしっかりへこんだ。
事実だからしょうがないんだけど、ついに一葉にも見捨てられるのか…。
幼馴染まで失うって…本当になにもなくなるな、俺。

「恋人になれるのはいつかって聞いてんだけど」
「こいびと?」

こいびと…って恋人か。
それはわかったけど一葉の意図がわからない。

「一葉は誰の恋人になりたいの?」
「今、俺は誰を見てる」
「? 俺だね」
「つまりそういうことだ」

そういうことってどういうこと?
一葉は幼馴染が嫌で、意味がわかってないだろって言って、いつ恋人になれるのかって…?
んん?
それで俺を見てて…?

「わからない。降参。教えて」

なんか変な表情してる…一葉ってこんな顔もできるんだ。
それでもかっこいいから、やっぱり一葉になれば俺は自分を好きになれるだろう。

本多(ほんだ)深來」
「なに?」

俺がどうした。

「俺を本多深來の恋人にしろ」