家を出て孝則と並んで歩く。
荷物を持ってくれて、でもあんまり会話がない。
電車に乗って孝則の家の最寄り駅で降りる。
駅からまた歩いてる間も一言二言喋ったくらい。
孝則の家に着いて、部屋に入ったら睨まれた。

「え、なに?」
「俊季の馬鹿」
「!?」

ほんとに急になに!?

「俺に遊園地行って欲しくないなら、最初から行けなんて言うな」
「え…」
「てか寝てる相手に告白してどうすんの? 返事聞けないのにそれでいいの?」
「……えっと」

これは………つまり?

「俊季の馬鹿」
「…っ!!」

顔が猛烈に熱い。
孝則、あのとき起きてたんだ!!

「寝たふりしてたの!? ずるい!!」
「起きようとしたらいきなり告白されたから動けなかったんだよ」
「ひどいひどいひどい!!!」
「ひどいのはどっちだよ」

孝則がクッションに座って、もうひとつのクッションを自分の隣に置く。
なんだろうと思ったら、そこに座れという意味らしい。
クッションをちょっと引っ張って距離を取ろうとしたら、引っ張り返されて元の状態より近くされた。
これはおとなしく座るしかない…と座ったら、なぜか俺の肩に孝則の腕が回ってきて、抱き寄せられる格好になってしまった。
キャパオーバー。
無理。

「すげー身体硬くなってる」
「………」
「俊季?」
「………」
「うわ、真っ赤」

顔を覗き込まないで。
動けない。
身体が動かない。
固まったままでいると髪をわしゃわしゃ撫でられた。

「馬鹿な俊季。俺だってずっと前から俊季が好きだった」
「………」
「俺だって俊季が宝物なんだよ」
「………」
「いい加減解凍されろ」
「………無理」
「できてんじゃん」

もう一回髪をわしゃわしゃされて、手で目を覆われた。

「え、なに…」

手を外そうとしてみるけどびくともしない。
真っ暗な中で少し顔を上げて孝則の顔のあるあたりを向いたら、おでこに柔らかいものが触れた。

「………」

今の、なに?
孝則の手に触れていた手をそのまま自分のおでこに持っていく。
感覚の残るそこに触れて、首を傾げる。
まさか、と思ったら視界が明るくなった。

「孝則!?」
「なに」
「い、今の…!」
「も一回して欲しい?」
「いい、遠慮しとく!」

いいって言ってるのに孝則は顔を寄せてきて、おでこにキスをした。
やっぱり……!

「な、な、な」
「『なんでおでこなの』って言いたい?」
「違う!」

どうしよう、もう無理。
くらくらしてきた。
深呼吸しようとしたら唇を指でふにふに触られた。
指先で唇を摘まんだり押したり撫でられたりされてほんと無理。

「じゃあなに?」
「えあう」

触らないで欲しいのに、言えない。
どきどきがひどくて心臓が爆発しそう。

「……俺の負けです」
「だな」

孝則が俺の目をじっと見る。
こういうの初めてじゃないのに、頭の中が真っ白になる。

「俊季の青い瞳に映ると、俺も宝石になれたみたいに見えるな」
「……孝則はそのままで俺の宝物だよ」
「ありがと」

また顔が近付いてきたので慌ててよけると、孝則がむっとする。

「なんでよけんの」
「だって…」
「まあいいや」

もっと迫られるかと思ったら、孝則はあっさり引いた。
ちょっと拍子抜けした俺の様子を見て、孝則が口角を上げる。

「時間はたっぷりあるしな」
「え」
「俊季は夜更かししたいんだろ? 前に言ってた」
「それは……ちょっと違う」

あれは孝則みたいに漫画を読んで夜更かししたいっていう意味で。

「寝たいなら今すぐ寝てもいーよ」
「まだ明るいから寝ないよ」
「でも夜更かしはできないんだろ?」
「できるよ! できないなんて言ってない!」
「へーえ…」

孝則の顔がまた近付いてきて、逃げようとしたら頭がしっかり捕まっていて逃げられない。
まずい…最後の挑発じみた質問は、俺を追い詰めるために違いない。

「明日の遊園地、やっぱり行けないって言ってあるから…朝までふたりで起きてようか。せっかくの誕生日だしな、希望どおり俊季のことだけ考えるよ」
「…っ」

朝までって……どういう意味?
まさか………違うよな…?
俺が考え過ぎなだけだよな……!?

耳にどっくんどっくん心臓の音が響く。
顔が今にも燃えそうなくらい熱い。
孝則の顔がどんどん近付いてくる。
俺だけが映る茶色い瞳に瞼が下りた。



END