◇◆◇
…孝則に避けられてる。
昨日、今度の日曜日に遊園地行ってあげればっていうのはあった。
それから一日、声をかけても孝則はすいっとどこかに行ってしまう。
今朝も駅から学校まで、俺のすぐ後ろにいたみたいなのに声を掛けてこなかった。
授業が終わってすぐに孝則の席に近寄ると、それを察知してさっといなくなる。
追いかけると逃げる。
じゃあ追いかけなければいいのか、と俺は静かに自分の席で孝則の横顔を見る。
逃げないけど近付けない。
これ、どうしたらいいんだ。
「…はぁ」
俺が遊園地行ってって言ったのが悪かったんだろうなぁ…。
あ、また孝則が女子と話してる。
遊園地の話かな。
行ってって言わなければよかったかな。
いや、本心では行って欲しくないけど、あんなにお願いされてたら断るの悪いじゃん?
一時間くらいならいいじゃん。
いいよな?
だめかな。
だめなんだろうな…だから孝則は機嫌悪くしてるんだろうな。
俺だって行って欲しくないけど、それ言ったら絶対女子達に『なんで?』って聞かれただろうし、まさか孝則が好きだからとは答えられないから、あれが正解だったんじゃないのかな。
いや、正解はもしかしたら黙って成り行きを見守っていることだったのかも…。
「……どうしたらいいんだ…」
正解を今更考えたところで時間は戻らない。
どう考えても俺は間違った選択肢を選んだ。
これからどうするか。
…でもなぁ…。
孝則が怒り心頭で、もう絶対許さないってなってたらどうもできないんじゃないか。
ああ、また別の女子が孝則に近付いてる…。
俺が近寄ると逃げるくせに、女子なら逃げないのか。
ちょっとイラっとして、それからやっぱり落ち込んできた。
嫌われたかも。
「あ」
孝則が俺を見た!
嬉しくて手を振ってみたら無視された。
振った手の行き所がわからなくて、そのまましばらく手を上げた状態でいる。
ゆっくり手を下ろして溜め息。
なんで手振ってるんだ。
怒ってる相手にするのは違うだろ。
また間違えた…。
「俺にどうしろって言うんだよー…」
逃げられたら謝ることもできない。
◇◆◇
翌日、まだ孝則は俺を避けている。
このまま日曜日になっちゃうんじゃない?
ていうかこんな気まずい状態で伊村家に行くの?
明後日はもう日曜日だよ?
えええ…。
…こんなに長く孝則と口を利かないの、初めてだ。
すごく寂しい。
もう元に戻れないのかな…。
悔やんだってどうにもできないし、謝らせてもくれないなんて、もう無理なのかも。
もう無理……。
「無理なのかな…」
孝則には友達や女子が話しかけに来ていて忙しない。
俺も孝則と話したい。
寂しいよ…。
◇◆◇
放課後、委員会が終わって帰ろうと思ったら体操服を忘れたことに気が付き、教室に戻る。
面倒だけど、汗を吸ったシャツやジャージを放置するのは嫌だ。
「あ…」
孝則が机に伏せて寝てる。
なにしてるんだろう。
いや、寝てるんだけど。
こんな時間までなんで残ってるんだろう……孝則は委員会も部活もやってないのに。
「……」
俺を待っててくれた…?
期待が脈を速くする。
でも、たぶん違う。
だって俺の環境委員会は急遽集まりが決まったから、孝則はそのことを知らない。
上がったテンションが一気に下がる。
そっと孝則の席に近付いて顔を見ると、綺麗な寝顔にどきどきする。
「…たかのり…」
小さく呼んでみるけど、反応なし。
寝息だけ聞こえる。
「……」
こうやって孝則に近付くのっていつぶり?
一昨日の朝が最後だ。
すごく寂しい。
寂しさが募って、つい孝則の髪に触れてしまった。
起きるかも。
「……」
寝息は続いてる。
手を離して、それから自嘲する。
馬鹿みたいだ。
手を振り払われても、睨まれても、孝則の意思がそこに欲しかった。
「……孝則が好き」
ぽつりと言ってみたら、思ったより心が楽になった。
きっとどこかに魚の小骨のように引っ掛かっていたんだろう。
続けて言葉を紡ぐ。
「ほんとは遊園地行って欲しくない。日曜日は俺のことだけ考えて欲しい」
静かな寝息が返ってくる。
寂しいけれど、でもこれだけは言いたい。
「俺の宝物は孝則だよ」
俺のたったひとつは孝則。
家族も好きだし、友達も好き。
でも一番はやっぱり孝則。
大好き。
起きてるときに言う勇気がなくてごめん。
でも、本当だから。
起こそうか悩んで、結局そのまま孝則を教室に残して俺はひとりで下校する。
自分勝手だけど、俺はすっきりした。
これでいいや。
ちょっと心臓がぎゅうってなるけど、これでいい。
…孝則に避けられてる。
昨日、今度の日曜日に遊園地行ってあげればっていうのはあった。
それから一日、声をかけても孝則はすいっとどこかに行ってしまう。
今朝も駅から学校まで、俺のすぐ後ろにいたみたいなのに声を掛けてこなかった。
授業が終わってすぐに孝則の席に近寄ると、それを察知してさっといなくなる。
追いかけると逃げる。
じゃあ追いかけなければいいのか、と俺は静かに自分の席で孝則の横顔を見る。
逃げないけど近付けない。
これ、どうしたらいいんだ。
「…はぁ」
俺が遊園地行ってって言ったのが悪かったんだろうなぁ…。
あ、また孝則が女子と話してる。
遊園地の話かな。
行ってって言わなければよかったかな。
いや、本心では行って欲しくないけど、あんなにお願いされてたら断るの悪いじゃん?
一時間くらいならいいじゃん。
いいよな?
だめかな。
だめなんだろうな…だから孝則は機嫌悪くしてるんだろうな。
俺だって行って欲しくないけど、それ言ったら絶対女子達に『なんで?』って聞かれただろうし、まさか孝則が好きだからとは答えられないから、あれが正解だったんじゃないのかな。
いや、正解はもしかしたら黙って成り行きを見守っていることだったのかも…。
「……どうしたらいいんだ…」
正解を今更考えたところで時間は戻らない。
どう考えても俺は間違った選択肢を選んだ。
これからどうするか。
…でもなぁ…。
孝則が怒り心頭で、もう絶対許さないってなってたらどうもできないんじゃないか。
ああ、また別の女子が孝則に近付いてる…。
俺が近寄ると逃げるくせに、女子なら逃げないのか。
ちょっとイラっとして、それからやっぱり落ち込んできた。
嫌われたかも。
「あ」
孝則が俺を見た!
嬉しくて手を振ってみたら無視された。
振った手の行き所がわからなくて、そのまましばらく手を上げた状態でいる。
ゆっくり手を下ろして溜め息。
なんで手振ってるんだ。
怒ってる相手にするのは違うだろ。
また間違えた…。
「俺にどうしろって言うんだよー…」
逃げられたら謝ることもできない。
◇◆◇
翌日、まだ孝則は俺を避けている。
このまま日曜日になっちゃうんじゃない?
ていうかこんな気まずい状態で伊村家に行くの?
明後日はもう日曜日だよ?
えええ…。
…こんなに長く孝則と口を利かないの、初めてだ。
すごく寂しい。
もう元に戻れないのかな…。
悔やんだってどうにもできないし、謝らせてもくれないなんて、もう無理なのかも。
もう無理……。
「無理なのかな…」
孝則には友達や女子が話しかけに来ていて忙しない。
俺も孝則と話したい。
寂しいよ…。
◇◆◇
放課後、委員会が終わって帰ろうと思ったら体操服を忘れたことに気が付き、教室に戻る。
面倒だけど、汗を吸ったシャツやジャージを放置するのは嫌だ。
「あ…」
孝則が机に伏せて寝てる。
なにしてるんだろう。
いや、寝てるんだけど。
こんな時間までなんで残ってるんだろう……孝則は委員会も部活もやってないのに。
「……」
俺を待っててくれた…?
期待が脈を速くする。
でも、たぶん違う。
だって俺の環境委員会は急遽集まりが決まったから、孝則はそのことを知らない。
上がったテンションが一気に下がる。
そっと孝則の席に近付いて顔を見ると、綺麗な寝顔にどきどきする。
「…たかのり…」
小さく呼んでみるけど、反応なし。
寝息だけ聞こえる。
「……」
こうやって孝則に近付くのっていつぶり?
一昨日の朝が最後だ。
すごく寂しい。
寂しさが募って、つい孝則の髪に触れてしまった。
起きるかも。
「……」
寝息は続いてる。
手を離して、それから自嘲する。
馬鹿みたいだ。
手を振り払われても、睨まれても、孝則の意思がそこに欲しかった。
「……孝則が好き」
ぽつりと言ってみたら、思ったより心が楽になった。
きっとどこかに魚の小骨のように引っ掛かっていたんだろう。
続けて言葉を紡ぐ。
「ほんとは遊園地行って欲しくない。日曜日は俺のことだけ考えて欲しい」
静かな寝息が返ってくる。
寂しいけれど、でもこれだけは言いたい。
「俺の宝物は孝則だよ」
俺のたったひとつは孝則。
家族も好きだし、友達も好き。
でも一番はやっぱり孝則。
大好き。
起きてるときに言う勇気がなくてごめん。
でも、本当だから。
起こそうか悩んで、結局そのまま孝則を教室に残して俺はひとりで下校する。
自分勝手だけど、俺はすっきりした。
これでいいや。
ちょっと心臓がぎゅうってなるけど、これでいい。



