◇◆◇
「伊村くん、次の日曜日空いてる?」
孝則と教室に着くと、待ち構えていた女子が三人、孝則を囲んだ。
次の日曜…。
「空いてない。予定ある」
孝則は即答する。
いいのかな。
予定って、俺の誕生日ってだけじゃん。
前々から『絶対お祝いするから、俊季も絶対絶対なにがなんでも予定空けといて』と言われていた。
孝則のお母さんも、ご馳走作るから!って俺の母親に連絡くれて、当日は伊村家でお祝いしてもらうことになっている。
いいのかな?と俺が思う以上に、なんか伊村家の人のほうが張り切っていて。
楽しみなんだけど、ちょっと申し訳ない。
って言うと孝則にほっぺた抓られるから言わない。
「予定ってなに?」
「秘密」
「教えてよ!」
「やだ」
女子達が孝則の腕や背中に触れる……もやもや。
別に恋人じゃないんだから、俺がもやもやするのはおかしいのはわかってるけど。
でも、好きな人がべたべた触られたら、そうなってしまうのは仕方ないと思う。
「わかった! 牧瀬くんと遊ぶんでしょ?」
「!」
もやもやしてたら急に女子の口から俺の名字が出てきて、少しびくっとする。
正解だけど孝則はどう答えるんだろう。
「関係ないだろ」
「否定しないってことはそうだ!」
「だから関係ないだろって」
女子達の視線がこちらに向くので怯む。
「牧瀬くん、お願い!」
「二時間…ううん、一時間だけ伊村くんに来てもらいたいの!」
「伊村くんがちょっとでも来てくれたら嬉しいから!」
「……来てもらいたいって、どこに?」
つい聞き返してしまうと、孝則が渋い顔をする。
まずかったかな。
「俊季、こういうのは相手するな」
「でも…」
ここまで言ってるのを無視できない。
俺は孝則のように強い心を持てないし。
「遊園地だよ」
「何人かで行くんだけど、男子が少ないんだよね」
「そうだ! 牧瀬くんも一緒に来れば、伊村くんも一時間だけじゃなくてずっといてくれるんじゃない?」
「「それいい!」」
「よくねーよ」
孝則がばっさり。
今日は妙に反応が厳しいな。
「とにかく、俺は先に予定決まってるから行けない。てか予定なくても行かない」
「なんでー」
「来てよー」
「ちょっとだけだから!」
女子三人のうちのふたりが孝則の右手と左手をそれぞれ取ってお願いし始めた。
孝則はすぐ手を引く。
こんなに頼まれてるのをさらっと断っちゃうのもなんだか可哀想に思えてきた。
「だから行かねーって! 俺は」
「行ってあげれば?」
孝則の動きが止まる。
「…は?」
「一時間くらい、いいじゃん」
「……」
「こんなに言ってるんだし、孝則だって楽しいかもよ?」
本心ではないけれど、こんなに言ってるし…それに一日いるわけじゃないし、一時間くらい……。
なんて考えが悪かったのかもしれない。
「本気で言ってんの?」
「え?」
「本気で俺に遊園地行けって言ってんの?」
なんか…すごく怒ってる?
なにも言えずに孝則を見上げると、孝則は大きな溜め息を吐いた。
「……わかった。行きゃいいんだろ」
「「「やった!」」」
女子達の声が重なる。
時間とか場所を聞いている孝則がこちらを少し見たけれど、その視線がすごく冷えていてぞくっとする。
「牧瀬くんも来る?」
そう聞かれたけれど、首を横に振った。
来て欲しいのは孝則だけだし、俺が行く意味がない。
それに、女子に囲まれてる孝則を見るのもなんだか…ちょっと複雑。
俺が行ってって言ったのに、すごく変。
ぼんやりしているうちに孝則が女子三人と連絡先を交換していた。
孝則は急に優しい笑顔になってて、さっきまでの厳しさが見えない。
そうこうしていたら予鈴が鳴って、女子達はご機嫌で孝則から離れた。
残された俺は孝則の様子を伺うけれど、孝則は無表情だ。
ちら、と俺を見た孝則が表情を歪めて顔を背ける。
「……俊季が行けって言ったんだからな」
顔を背ける前、一瞬こちらを見た茶色い瞳は傷付いているように感じられた。
その理由がわからず、俺は自分の席に向かう孝則の背中を見ているしかできなかった。
「伊村くん、次の日曜日空いてる?」
孝則と教室に着くと、待ち構えていた女子が三人、孝則を囲んだ。
次の日曜…。
「空いてない。予定ある」
孝則は即答する。
いいのかな。
予定って、俺の誕生日ってだけじゃん。
前々から『絶対お祝いするから、俊季も絶対絶対なにがなんでも予定空けといて』と言われていた。
孝則のお母さんも、ご馳走作るから!って俺の母親に連絡くれて、当日は伊村家でお祝いしてもらうことになっている。
いいのかな?と俺が思う以上に、なんか伊村家の人のほうが張り切っていて。
楽しみなんだけど、ちょっと申し訳ない。
って言うと孝則にほっぺた抓られるから言わない。
「予定ってなに?」
「秘密」
「教えてよ!」
「やだ」
女子達が孝則の腕や背中に触れる……もやもや。
別に恋人じゃないんだから、俺がもやもやするのはおかしいのはわかってるけど。
でも、好きな人がべたべた触られたら、そうなってしまうのは仕方ないと思う。
「わかった! 牧瀬くんと遊ぶんでしょ?」
「!」
もやもやしてたら急に女子の口から俺の名字が出てきて、少しびくっとする。
正解だけど孝則はどう答えるんだろう。
「関係ないだろ」
「否定しないってことはそうだ!」
「だから関係ないだろって」
女子達の視線がこちらに向くので怯む。
「牧瀬くん、お願い!」
「二時間…ううん、一時間だけ伊村くんに来てもらいたいの!」
「伊村くんがちょっとでも来てくれたら嬉しいから!」
「……来てもらいたいって、どこに?」
つい聞き返してしまうと、孝則が渋い顔をする。
まずかったかな。
「俊季、こういうのは相手するな」
「でも…」
ここまで言ってるのを無視できない。
俺は孝則のように強い心を持てないし。
「遊園地だよ」
「何人かで行くんだけど、男子が少ないんだよね」
「そうだ! 牧瀬くんも一緒に来れば、伊村くんも一時間だけじゃなくてずっといてくれるんじゃない?」
「「それいい!」」
「よくねーよ」
孝則がばっさり。
今日は妙に反応が厳しいな。
「とにかく、俺は先に予定決まってるから行けない。てか予定なくても行かない」
「なんでー」
「来てよー」
「ちょっとだけだから!」
女子三人のうちのふたりが孝則の右手と左手をそれぞれ取ってお願いし始めた。
孝則はすぐ手を引く。
こんなに頼まれてるのをさらっと断っちゃうのもなんだか可哀想に思えてきた。
「だから行かねーって! 俺は」
「行ってあげれば?」
孝則の動きが止まる。
「…は?」
「一時間くらい、いいじゃん」
「……」
「こんなに言ってるんだし、孝則だって楽しいかもよ?」
本心ではないけれど、こんなに言ってるし…それに一日いるわけじゃないし、一時間くらい……。
なんて考えが悪かったのかもしれない。
「本気で言ってんの?」
「え?」
「本気で俺に遊園地行けって言ってんの?」
なんか…すごく怒ってる?
なにも言えずに孝則を見上げると、孝則は大きな溜め息を吐いた。
「……わかった。行きゃいいんだろ」
「「「やった!」」」
女子達の声が重なる。
時間とか場所を聞いている孝則がこちらを少し見たけれど、その視線がすごく冷えていてぞくっとする。
「牧瀬くんも来る?」
そう聞かれたけれど、首を横に振った。
来て欲しいのは孝則だけだし、俺が行く意味がない。
それに、女子に囲まれてる孝則を見るのもなんだか…ちょっと複雑。
俺が行ってって言ったのに、すごく変。
ぼんやりしているうちに孝則が女子三人と連絡先を交換していた。
孝則は急に優しい笑顔になってて、さっきまでの厳しさが見えない。
そうこうしていたら予鈴が鳴って、女子達はご機嫌で孝則から離れた。
残された俺は孝則の様子を伺うけれど、孝則は無表情だ。
ちら、と俺を見た孝則が表情を歪めて顔を背ける。
「……俊季が行けって言ったんだからな」
顔を背ける前、一瞬こちらを見た茶色い瞳は傷付いているように感じられた。
その理由がわからず、俺は自分の席に向かう孝則の背中を見ているしかできなかった。



