翌日もすごくよく晴れてるのに帰ろうとすると雨が降り出した。
巽は足を留めて俺と時間を過ごしてくれた。

「“()らずの雨”」
「?」
「意味わかる?」
「わかんない」

やらず…?
なにそれ。

「帰ったら調べてみろ」
「うん…」

スマホを出そうとしたら。

「帰ったらって言っただろ」
「今はだめなの?」
「だめ」

なんだかわからないけど、巽がだめって言うなら帰ってからにする。
昨日のようにふたりで外を見ながら壁に寄りかかる。
でも今日は会話がない。
無言で雨の降る様子を眺めていると、巽の手の甲と俺の手の甲がぶつかった。
このまま手を繋げたら最高なんだけどな、と思いながら手が当たらないように離そうとしたら、手をきゅっと握られた。
心臓が止まるかと思った…いや、一瞬くらい止まったかも。

「巽…?」
「黙ってろ」

指を絡められて、巽の顔を見たいけど見られない。
身体全体が心臓になったみたいに全身脈打ってる。
熱い…熱い。
くらくらして倒れそう。
たぶん俺、手汗すごい。

「あ、あの…巽…」
「黙ってろって」

夢?
夢としか思えない。
絶対これ夢。
うん、確実にそう。
一体どこからが…?

「……“遣らずの雨”は、帰ろうとする人を引き留めるように降り出す雨の事だ」
「え? あ…」

さっきの…?
帰ってから調べろって言ってたのに、どうしたんだろう。
でも。

「まるで俺の願いみたい…」

帰ろうとする巽を引き留めたい。

はっとして慌てて空いたほうの手で口を押さえる。
怒られるかな。
呆れられるかな。
ちら、と巽を見ると、ちょっと口角が上がってるから怒っても呆れられてもいないみたい。

「残念だったな」
「…だよね」

そんな都合のいいようにはいかない。

「耀じゃなくて俺の願いだ」

え?

雨はまだ止まない。



END