遣らずの雨

せっかく同じクラスになったのに、授業中にこっそり姿を盗み見る事ができないのは残念だ。
席替えに期待しよう。
できたら巽のすぐ後ろの席がいい。
巽は嫌がるだろうけど。
嫌がる顔もかっこいいんだよな。
でもやっぱり笑顔が一番好き。

「巽」
「……耀って俺以外に興味ないの?」
「ない」

通学バッグを持って『さあ帰ろう』と巽のところに行くと、巽は溜め息を吐いた。

「いいじゃん。巽だって部活も委員会もやってないんだから一緒に帰ろうよ」
「まあ、いいけど…」

帰るって言っても駅まで。
家の方向が逆だから乗る電車が違う。
ふたりで教室を出る。

「巽、進路どうするか決めてる?」
「決めても耀には教えない」
「教えてよ! 頑張って同じ大学行くから!」
「だから教えないんだよ」

そりゃそうだろうな。
巽のそばにいられるのは、どうやってもあと一年弱か。
じゃあめいっぱい好きを伝えておかないと。

「巽、」
「『好き』以外なら聞く」
「え。それ以外になに言えって?」
「……」

階段を下りながらそんな会話をする。
こういうのも幸せなんだ。
巽とならなんでもいい。
切ないのも苦しいのも、大切にしたい。

「うわ…」

下駄箱の辺りで生徒達が溜まっているから外を見ると雨が降っている。
さっきまで晴れてたのに。

「結構ひどいな」
「どうする? 巽、傘持ってる?」
「持ってない。ちょっと待つか」
「…うん」

雨万歳。
ふたりで壁に寄りかかって外を眺めながらぽつぽつ話をする。
どう聞いても巽は進路を教えてくれない。
でも進路の話題になると視線をすっと逸らすあたり、悩んでるっぽい。
巽ならやりたい事見つけたらまっすぐ進めると思うんだけどな。

「巽なら大丈夫だよ」
「は?」
「巽は大丈夫」
「……」
「俺が大好きな巽だから」
「…なんだよ、それ」

おかしそうに笑う巽の表情が優しくて心臓がぎゅうっとなる。
俺が言えるのはこんな事くらいだけど、でも俺には自信がある。
だってずっとずっと巽を見てきた。
しっかりしていて間違えない。
頼りになってかっこよくて、俺はそんな巽に心の底から憧れてる。

「ありがと」

そうやって嬉しい言葉をくれるから、俺は舞い上がってしまう。
友達なんかじゃ収まるわけない。
大好き、大好き、巽が大好き。