俺、桐田(きりた)一也(いちや)の恋は絶対叶わない。

駅ビルに手を繋いで入って行く男女の姿を、いつものように近くのファストフード店の窓際の席から眺める。
毎週金曜日、夕方五時頃に姿を見せるふたり。
それに合わせて俺はこの席に座る。
ふたりが駅ビル内に入って行ったら席を立つ。
そのためだけに毎週この店に来る。
……いや、俺が見たいのは“ふたり”じゃなくて“彼”なんだけど。

俺は男が好きなのかと思ったけど、他の男子に対して恋愛感情を持った事はない。
彼じゃなかったら女子を好きになっていただろう。
なんで気になるようになったかも、好きになったのかもわからない。
ただ数週間前のある日、偶然駅ビルに入って行くふたりの姿を見て彼に一目惚れした。

最初は戸惑った。
彼がかっこいいからつい見てしまっただけなのかと思ったけど、心臓はどきどきするし顔は熱くなっていく。
いつも私服だけど、彼も俺と同い年くらいで高校生だと思う。
かっこいいだけじゃなくて、背が高くてスタイルもよくて、彼女にとっては自慢の彼氏だろう。
平凡で地味で目立たない俺とは正反対の人。

理由なんてない。
好き。
そう思った。

そして次は胸が痛くなった。
だって好きになったと同時に失恋が決まったから。
男子を好きになった事もびっくりしたけど、彼女がいる人を好きになった事はもっとびっくりした。
なにもそんな人を好きにならなくてもいいのに…。

でも気持ちが抑えられず、俺は彼の姿を見たくて翌日の同じ時間に駅ビルの近くに来てみたけれど見つけられなかった。
その翌日も、その翌日もだめだった。
そうして一週間後、また彼を見つけた。
そのうち、毎週金曜日の五時頃に駅ビルに入って行く事がわかった。
お決まりのデートコースなのかもしれない。
だからその一分か二分のために俺はファストフード店で待つようになった。
ただ見るだけ。
男同士だし、叶わない想いを伝えるなんて絶対できないから、ただ見て満足する。
苦しいけれど、それでも見られるだけ幸せだと思っている。

「……はぁ…」

ファストフード店を出て溜め息。
見られるだけで幸せなんて嘘だ。
本当はそんな風に思えない。

俺を好きになってもらいたい。

絶対無理な願いが、心の中でぐるぐるしてしまう。
なにかの奇跡が起こって、彼が俺を見てくれる日は来ないだろうか…。

「…来ないよな」

たとえあの彼女と別れたとしても他の女子を選ぶだろう。
まさかこんな地味な、しかも男子を選ぶはずがない。
それに相手は俺を知らない。
接点のない俺達に、奇跡なんて起こりっこない。