◇◆◇
「由佐、どうした?」
「え?」
「考え事?」
智輝が俺の顔を覗き込む…近い。
ちょっと身体を引くと笑われた。
「…いや、なんでもない」
「そう?」
「うん」
「なんかあったら言ってね?」
「ありがと」
“なんか”はある。
智輝が好きだって事。
でも、“三つ葉”が“四つ葉”に小さい頃からずっと恋をしてるなんて口が裂けても言えない。
「あ」
「?」
智輝が急に俺の髪に触れる。
どくん。
心臓が急激におかしな動きを始める。
「ゴミついてた」
「え、あ、ああ…ありがと」
思わず胸を押さえる。
そんな俺を見て智輝が微笑む。
「由佐って可愛いよね」
「!?」
「ね、俺のものにならない?」
「!?!?」
「…なんて、ね」
俺の頬を指でなぞって吊革を掴む智輝。
心臓爆発しそう。
智輝はよく、こういう心臓に悪い冗談を言うから俺は本当に倒れそうになる。
これが本気で言ってくれてる事だったらどんなに嬉しいか。
でも、いつも必ず『なんてね』が最後にくっつく。
俺を振り回す、そういうずるさも好きだからどうしようもない。
…智輝は好きな人、いるのかな。
昔は俺が好きだっていつも言ってくれたけど、中学に上がったくらいからそういう話はしなくなった。
やっぱり好きな子、いるんだろうな。
高校生にもなって初恋を引きずっているのは俺だけだろう。
もしかしたらそれなりに色んな経験もあるのかもしれない。
だからいつも余裕で俺をからかう事ができるのかも…。
二月十四日、バレンタイン。
俺は毎年こっそり智輝の机にチョコを入れていた。
気付いてほしくて、気付かれたくなくて。
名前なんて書けないけど、精いっぱいの勇気で三つ葉のクローバーのシールを箱の隅に貼る。
でも智輝はその意味に気付いていない。
今年もそのつもりだったけど、チョコは結局手元に残ったままになった。
「俺、好きな子がいるから、その子以外からのチョコはもう受け取らない事にしたんだ」
智輝がそう言ってチョコを断ったと言う噂が聞こえてきたからだ。
わかっていてもショックだった。
チョコは家に帰ってひとりで食べた。
そしたら次の日、おでこにぽつんとひとつニキビができてしまった…最悪。
今までこんな事なかったのに。
バレンタインの翌朝、どういう顔をして智輝に会えばいいのかわからなかった。
間接的に振られたんだ。
会うのも辛い。
と思ったら智輝のほうがへこんでいて、この世の終わりのような顔をしていた。
どうしたのか聞こうかと思ったけど、俺が踏み込んでいい問題じゃないような気がしてなにも聞けなかった。
それからなんだか智輝は俺を避けているようだった。
よくわからないし、俺も苦しいから自分から智輝に近付く事をしなかった。
そうこうしているうちに春休みになってしまった。
ニキビはケアをしているにも関わらず一向によくならず、ぽつんとおでこに居座っている。
智輝は相変わらず顔を合わせると暗い顔をしている。
好きな子とうまくいってないのかもしれない。
俺にできる事なんてなにもないから、ただ応援するしかできない。
まだ苦しいけど、智輝が幸せになってくれるなら…。
「……散歩でも行こうかな」
天気もいいし、ずっと部屋にこもってると気分も滅入る。
外は暖かくて風が気持ちよくて散歩日和だった。
ふらふらとどこに行くでもなく近所を歩き回る。
昔は智輝とあちこち出かけたな、と思いながら公園に着いたので一休み。
ベンチに座ってふと見ると、三つ葉のクローバーが見える。
「……」
四つ葉のクローバーを見つけて智輝にプレゼントしたいな。
そうしたら智輝の好きな子ともうまくいくかもしれない。
そんな事を思って三つ葉の中から四つ葉探しを始める。
探しても探しても三つ葉。
俺が欲しいのは四つ葉のクローバーで、智輝。
でも俺は智輝が四つ葉だから欲しいんじゃない。
智輝が三つ葉のクローバーだったとしても俺は智輝が欲しい。
叶わなくたって、想うのは自由じゃないか。
視界が滲み始める。
「…っう…」
好きなんだよ、智輝…。
ずっとずっと好きだった。
でもここで四つ葉を見つけたら、もう諦めて忘れよう。
初恋は実らないって言うし、こういうものだって思おう。
…四つ葉は見つかりっこないから、俺は諦めるつもりはないんだろうな。
ぽつり、と手の甲に雫が落ちる。
「雨…?」
そんな予報出てなかった。
でも今はやめたくない。
そのまま続けて四つ葉を探す。
見つけ出したいのか見つけたくないのかわからないけど探したい。
そこには智輝の幸せが詰まっているような気がしたから。
四つ葉を手にしたら、智輝がまた笑ってくれるような気がするから。
見つかりっこないけど、どこかには必ずある。
それを信じたかった。
「由佐、どうした?」
「え?」
「考え事?」
智輝が俺の顔を覗き込む…近い。
ちょっと身体を引くと笑われた。
「…いや、なんでもない」
「そう?」
「うん」
「なんかあったら言ってね?」
「ありがと」
“なんか”はある。
智輝が好きだって事。
でも、“三つ葉”が“四つ葉”に小さい頃からずっと恋をしてるなんて口が裂けても言えない。
「あ」
「?」
智輝が急に俺の髪に触れる。
どくん。
心臓が急激におかしな動きを始める。
「ゴミついてた」
「え、あ、ああ…ありがと」
思わず胸を押さえる。
そんな俺を見て智輝が微笑む。
「由佐って可愛いよね」
「!?」
「ね、俺のものにならない?」
「!?!?」
「…なんて、ね」
俺の頬を指でなぞって吊革を掴む智輝。
心臓爆発しそう。
智輝はよく、こういう心臓に悪い冗談を言うから俺は本当に倒れそうになる。
これが本気で言ってくれてる事だったらどんなに嬉しいか。
でも、いつも必ず『なんてね』が最後にくっつく。
俺を振り回す、そういうずるさも好きだからどうしようもない。
…智輝は好きな人、いるのかな。
昔は俺が好きだっていつも言ってくれたけど、中学に上がったくらいからそういう話はしなくなった。
やっぱり好きな子、いるんだろうな。
高校生にもなって初恋を引きずっているのは俺だけだろう。
もしかしたらそれなりに色んな経験もあるのかもしれない。
だからいつも余裕で俺をからかう事ができるのかも…。
二月十四日、バレンタイン。
俺は毎年こっそり智輝の机にチョコを入れていた。
気付いてほしくて、気付かれたくなくて。
名前なんて書けないけど、精いっぱいの勇気で三つ葉のクローバーのシールを箱の隅に貼る。
でも智輝はその意味に気付いていない。
今年もそのつもりだったけど、チョコは結局手元に残ったままになった。
「俺、好きな子がいるから、その子以外からのチョコはもう受け取らない事にしたんだ」
智輝がそう言ってチョコを断ったと言う噂が聞こえてきたからだ。
わかっていてもショックだった。
チョコは家に帰ってひとりで食べた。
そしたら次の日、おでこにぽつんとひとつニキビができてしまった…最悪。
今までこんな事なかったのに。
バレンタインの翌朝、どういう顔をして智輝に会えばいいのかわからなかった。
間接的に振られたんだ。
会うのも辛い。
と思ったら智輝のほうがへこんでいて、この世の終わりのような顔をしていた。
どうしたのか聞こうかと思ったけど、俺が踏み込んでいい問題じゃないような気がしてなにも聞けなかった。
それからなんだか智輝は俺を避けているようだった。
よくわからないし、俺も苦しいから自分から智輝に近付く事をしなかった。
そうこうしているうちに春休みになってしまった。
ニキビはケアをしているにも関わらず一向によくならず、ぽつんとおでこに居座っている。
智輝は相変わらず顔を合わせると暗い顔をしている。
好きな子とうまくいってないのかもしれない。
俺にできる事なんてなにもないから、ただ応援するしかできない。
まだ苦しいけど、智輝が幸せになってくれるなら…。
「……散歩でも行こうかな」
天気もいいし、ずっと部屋にこもってると気分も滅入る。
外は暖かくて風が気持ちよくて散歩日和だった。
ふらふらとどこに行くでもなく近所を歩き回る。
昔は智輝とあちこち出かけたな、と思いながら公園に着いたので一休み。
ベンチに座ってふと見ると、三つ葉のクローバーが見える。
「……」
四つ葉のクローバーを見つけて智輝にプレゼントしたいな。
そうしたら智輝の好きな子ともうまくいくかもしれない。
そんな事を思って三つ葉の中から四つ葉探しを始める。
探しても探しても三つ葉。
俺が欲しいのは四つ葉のクローバーで、智輝。
でも俺は智輝が四つ葉だから欲しいんじゃない。
智輝が三つ葉のクローバーだったとしても俺は智輝が欲しい。
叶わなくたって、想うのは自由じゃないか。
視界が滲み始める。
「…っう…」
好きなんだよ、智輝…。
ずっとずっと好きだった。
でもここで四つ葉を見つけたら、もう諦めて忘れよう。
初恋は実らないって言うし、こういうものだって思おう。
…四つ葉は見つかりっこないから、俺は諦めるつもりはないんだろうな。
ぽつり、と手の甲に雫が落ちる。
「雨…?」
そんな予報出てなかった。
でも今はやめたくない。
そのまま続けて四つ葉を探す。
見つけ出したいのか見つけたくないのかわからないけど探したい。
そこには智輝の幸せが詰まっているような気がしたから。
四つ葉を手にしたら、智輝がまた笑ってくれるような気がするから。
見つかりっこないけど、どこかには必ずある。
それを信じたかった。



