いつも通りの通学の電車。
でもちょっと違う。
日和が隣で俺のイヤホンの右側を右耳に着けて同じ音を共有している。
日和はじっと俺を見ているからちょっと恥ずかしい。

「日和、今の歌詞ってなんて言ってたの?」
「『きみが好き』」
「…じゃあ今のは?」
「『きみがすごく好き』」
「……」

この曲、ラブソングじゃないはず。

「日和…」
「ん?」
「俺の事からかって楽しい?」
「からかってないよ?」

俺の耳元に顔を近付けて。

「俺はいつでも本気で准が好き」

顔が猛烈に熱くなって思わず後ずさったらうしろは手すりで、少ししか動けなかった上に頭をぶつけた。
忘れていたけど俺が座っているのは座席の一番端。

「……」

痛みに涙を滲ませながらぶつけた頭をさすっていたら、日和が笑いを堪えながらその場所を撫でてくれた。
やっぱり日和は意地悪だった。
でもそこもすごく…好き、だったりする。
頭を撫でる手つきが優しくて、意地悪だけじゃないところにもどきどきしてしまう。
やり返したくても俺にはどうやったらいいかわからない。
悔しい。

だからってわけじゃないけど、周りから見えないようにバッグの陰でそっと日和の手を握る。
そしたら日和がちょっと身体を強張らせて頬を染めた。

「お、俺だって日和が好き、だし…」
「…う、うん」

いつも通りなのにいつも通りじゃなくて。
なんだかおかしな感じ。

“彼”が“日和”になって、隣がよく空くようになったので前に立っていた日和は隣に座るようになった。
あと、連絡先を交換したし、今度の週末には初めて通学の電車以外で会う約束をしている。
すごく緊張するけど、それ以上に楽しみ。

ガタンゴトンガタンゴトン…

日和と俺を乗せて、今日も電車は走る。



END