松下(まつした)、ずっと好きだった」

イケメンに変身した過去のクラスメイトは、周りの目も気にせず俺にそう言った。



成人式。
寒いしどうすっかなと思っていたけど、一生に一度だし、あとで『行っておけばよかった』って思うのも嫌だから参加する事にした。
遊園地での成人式なので、それなりに楽しそうだし。

中学で仲良くなって同じ高校に入り、別の大学に進んだ友人の史也(ふみや)も行くと連絡があったから、半年ぶりに会える。
史也とは頻繁には会えなくても時折生存確認の連絡をし合っている。
それ以外の中学・高校時代の友人とはすっかり疎遠になってしまったけれど、そういうやつらとも久々に会えると思うとわくわくするかも。

慣れないスーツに着替えてアパートの部屋を出る。
電車を乗り換えようとしたところで史也と一緒になった。

音和(とわ)、久しぶり。元気そうでよかった」
「史也もな」

ぽつぽつ話をしながら電車に揺られる。
成人式が行われる遊園地の最寄り駅に近付くと振袖・スーツの姿がどんどん増える。
そして到着。
一気に成人式一色。

久々に会った旧友達と声を掛け合う。
俺はもう誕生日が来ていて二十歳を迎えているのでワゴンで出ているビールを買って飲む。
史也はまだ誕生日が来ていないのでジュース。
みんな変わってなくて、なんかほっとする。
来てよかった。

と。
なんか周りがざわつき始める。
みんなの視線が一か所に集まっているので、ビールを飲みながらそっちを向くと、長身のイケメンの姿が。

「…すげ」
「みんな見てんな。特に女子」

俺と史也でこそこそ言っていると、周囲を見回していたイケメンと目が合った。

「!」

一瞬怯んでしまう。
そしてなぜかイケメンは俺と史也のほうに来る。

「史也、知り合い?」
「知らん。音和こそ知ってるやつじゃないの?」
「全然知らない」

あんなイケメン、一度会ったら忘れない。
イケメンはスマートに人の間を縫って俺の前に立った。

「久しぶり」

声を聞いても全く聞き覚えなんてない。
誰だ。
もしかして人違いでは。

「え、っと…?」
片岡(かたおか)南央(なお)。覚えてない?」
「……」

片岡南央。
片岡…え!?

「片岡!?」
「知ってんの?」

声を上げる俺に史也が聞く。

「小学校の時に仲良かったやつ!」
「じゃあすぐ気付いてやれよ…」

史也の呆れた声。

そんなの無理だ。
だって、俺の知ってる片岡南央って…。

「え。ほんとにあの片岡?」
「うん」

片岡は爽やかに微笑む。

俺の知ってる片岡南央は、コロッコロに太っていて、いつも背の順で一番前だった。
ふざけてばっかりいていつも周りを笑わせていた…それが片岡南央。
片岡が小学校卒業と同時に引っ越して、それっきりだった。

マジであいつがこんな長身イケメンになんのか!?

「え、ほんとに片岡…?」

もう一度聞いてしまう。
片岡は嫌な顔ひとつせず頷く。

「そう」

俺と片岡の会話を聞いていた周りの人間も、片岡を知っているやつらが騒ぎ出す。
そりゃそうだ。
印象が変わったとか言うレベルじゃない。
別人。

「…松下」

片岡は真剣な顔で俺を見て。

「ずっと好きだった」

そう言って俺の手を取った。

………。

「…えっと?」
「このあと時間ある? どっか入ろうよ」

片岡がぱっと手を離して言う。

「あ、うん…こいつもいい?」
「え」

なんとなく、史也を連れて行っていいか聞くと、片岡じゃなくて史也が『なんで』って声を出す。

「うん」

片岡はやっぱり嫌な顔などせず、頷いた。

そして成人式後、三人で居酒屋に入った。