鬼景色


 男はわずかに首をかしげながら女を見下ろし、彼女が言葉を続けるのを待っているようだった。女はこの、男の無反応に近い反応に慣れているようで、滑らかに先を続けた。

「なぁに、簡単な仕事だよ。きっと今までで一番楽な依頼だろうね。相手は、若い娘っ子でね。鍛えてるわけでもない、ただのか弱い女子さ。名前は(ケイ)

 この時はじめて、男はピクリと眉を動かした。
 そして、形いい、ずっと結ばれていた男の唇が動くと、低い、まるで鐘の音のように空気を震わせる声が響いた。

「そんなに簡単なら、なぜ俺を?」
 その問いに女は、唇の両端をますます上げて、満足そうにうなづく。
「まぁ、怒らないでおくれよ。実はね、この娘はたいした別嬪(べっぴん)さんなんだ。可愛らしくて可憐な娘さんさ。おまけに彼女自身にはなんの罪もないときた。だから剣じゃ、情に(ほだ)されてしまうかもしれなくてねぇ……人情どころか、色情までねぇ」
「なぜ?」

 なぜ、殺る必要がある?
 男の素朴な質問に、しかし、女は笑いながら、答えなかった。

「実はね、剣にも同じことを頼もうと思っているんだよ。もし剣が殺れなかった場合は、鬼、あんたが殺ればいい。どうだい?」

 男に選択の余地などなかった。選ぶ必要も、その理由もなかった。
 そう。今までは。