はたしてこの男には心があるのだろうかと思えるほど、無表情のままだ。切れ長の瞳はたしかにザクロと名乗った女の指先を追っている。しかし、その指が男の衿もとを滑っても、眉一つ動かさなかった。
どれだけ妖艶な女の指の動きにも、女の長い首がのぞく襟元がどれだけ近づいてきても、その媚薬のような甘い香りが鼻腔をくすぐっても。
男は動かない。
動く理由がない、とでもいうふうに。
女の方も、男の無反応に気を悪くするわけでもなく、好き勝手にしている。
「まぁ、あれだね。あの男はもっと苦しませてやってもよかっただろうけどね。でも、確実にしたかったんだよ。だからあんたを選んだって訳さ、鬼。剣じゃなくて」
すると、女は自分の着物の衿に手を入れて、胸元あたりをさぐり、一つの和紙に包まれた包みを取り出してみせた。
「報酬だよ。はずんでおいたからね」
男はそれを女から受け取り、自分の着物の中へしまい込んだ。中身を確認するということはなかった。
女はまた煙管をくゆらせ、鬼と呼ばれた男をじっくりと鑑賞するように見つめる。
そして、ある時点でなにかを決意したようだった。
横にあった丸い漆喰の盆に煙管をのせると、紅を塗った唇でふふと微笑んで見せる。しかし、目は笑っていなかった。
「さっそくで悪いけど、鬼、あんたに頼みたい仕事がもうひとつある」

