そうしてしばらく経ったころ、少女はやっと声を掛けてくる連中から解放されて、ひとりになっていた。相変わらず大通りは忙しく、人混みにまぎれるのに不自由はない。
いまだ。
鬼はその機会を感じた。
ずっと前を見て歩いていた少女がうつむき加減になった時、着物の影から白いうなじがのぞき、彼女がどれだけ殺りやすい存在であるかを雄弁に物語った。いまだ。行け。
しかし、鬼の足は動かない。
なにを待っている。
どういうわけか、鬼の身体はかたくなに動くことを拒否していた。なぜか口の中が湿りだして、鬼はごくりと唾を飲み込んだが、目だけは少女からひと時も離さずにいた。
その時だ。
鬼は、少女の目の前に飛び出してきた、一人の男の影を見た……まさに鬼がしようとしていたように、人混みにまぎれ彼女に近づき、なにか鋭利なもので急所をひと突きしようとする影……。
もちろん、鬼でなければ気付くこともできないほどの早さだ。鬼だから、見つけることができた。
そして、鬼だけが、止めることができた。
ずっと動かなかった鬼の身体が、今度は見えない力に弾かれたように、素早く往来を駆け抜けた。常人にはあり得ないほどの身のこなしだったが、間に合うかどうかは確かではなかった。鬼の心臓が高鳴る。
そして、なにかに気が付いた少女が、驚いたように顔を上げる。

