鬼景色


 なぜザクロがこの少女の暗殺を鬼に頼んだのか、鬼はまだ答えが出せずにいた。

 なるほど、ザクロは少女が美しいため、剣では情が湧いて殺しづらくなるかもしれないから……と言った。しかし、それだけなら、単純に鬼一人に依頼を託せばいいものを、剣にも同じことを頼むつもりでいると言う。
 明らかにいつもとは違う扱いだった。

 それに加え、鬼は自分がなぜここに立って少女を観察し続けているのか、その理由をも分からずにいた。
 剣に先を譲る必要はないはずだ。

 鬼がさっさと先に少女を殺してしまえば、それですべては終わり。誰に殺されたからといって少女の運命が変わるわけでもなく、報酬は当然、鬼のものとなる。剣は文句を言うかもしれないが、あの男は口先がうるさいだけで、根に持つ性格ではないのは分かっていた。

 しかし、なにかが鬼を止めていた。

 いままでどんな相手をどんな状況で殺さなければならないといって、理由もなく躊躇したことはなかったのに、なにかが鬼の足を止めているようだった。
 鬼には心がなかったが、頭がない訳ではない。危険な状況ならば身を引き、機会を待つことをためらわなかった。
 生きたい訳ではないが、死にたい訳でもないのだ。だから、まともな理由さえあれば、鬼は自分を止めた。

 しかし、今はなんだ?
 さっさと殺ってしまえばいいのに、なぜ俺は、ここに棒のように立ち尽くして、少女を眺めている?

 少女は抜けるような白い肌をしていた。
 髪といい、肌といい、唇といい、すべてが柔らかそうな少女だった。年の頃は十五、六ほどか。鬼よりも一回り以上若いように思える。

 しかし、なによりも鬼の視線を釘付けにしたのは、少女の瞳だった。
 美しいとか、美しくないとか、そういった形容はなに一つ思い浮かばなかったが、ただ、少女の瞳から目を離せずにいた。
 目を、離せずにいた。