お見合いの席で一時間くらい話すと、「あとはお若いお二人で」とばかりに私と京極清一郎の二人っきりにされる。

彼がお見合い中に少し身体を乗り出して私に興味あるそぶりを見せていたのはポーズだったのだろう。
彼は私と二人になるなり、足を崩しスマホを弄りながら退屈そうにしていた。

「何か食べたら?」
面倒そうに彼が呟く。

誰も手を付けてない懐石料理を指差す彼を見て、私は立ち上がった。
小綺麗に飾り付けてあるが、全く食欲が湧かない。工場見学の最初に見せるVTRで食事が美味しそうに見えるのは愛する人との食事風景を流しているからだと改めて思った。
好きでもない男を観察しながら食事をする趣味はない。

「清一郎さん、お一人でどうぞ召し上がりください。私は用事があるので、これで失礼します」
「冗談だろ。老舗料亭の料理なんて前の人間の使い回しかもしれないだろう。伝統に胡座をかいてるのが一目で分かる料理だ」

意地悪そうに笑いながら、私を流し目でみる男の考えが読めない。